一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
 言った途端に自分の話の下手さに泣きたくなった。これではまるでただの現状報告だ。ここからどうやって話をつなげていくのだろう。

「えーっと」

 固まったまま動かない健斗を前に、また意味の無い声を発する。気が付けば美晴もガチカチに固まっていた。このまま二人、無駄に時間だけが刻まれていきそうになったが、洗面所から電子音が高らかに聞こえてきてハッとする。

「洗濯物!」

 金縛りが一気に解けて、美晴が動き出した。

「あの、私、洗濯物干すんで、健斗はそのテーブルの上片付けてくれる? ね?」
「……」

 未だ無言で固まったままの健斗を置いて、美晴は洗面所へと駆け込んだ。洗濯機から衣類やシーツを取り出すとシワを伸ばして畳み、洗濯かごに入れる。ダイニングを通って寝室に入ると、サッシを開けてベランダヘ出た。心臓が、バクバクしている。自分が発した「好き」という言葉が頭の中でこだまして、うっかりすると恥ずかしさに叫びだしそうになっていた。

 最初に自分の衣類等を干すと、最後にシーツを広げる。健斗の家の物干しはベランダの天井から吊り下げるタイプのものだ。さすがに自分の目線より上の高さの物干し竿にシーツをかけるのは、やり辛い。もたもたとしていると背後から腕が伸びてシーツが奪われた。

「これでおしまい?」

 背後から耳元に響く健斗の声。

「うん……」

 距離の近さに、美晴の心が揺さぶられる。耳たぶが熱を持ち、首筋や背中の神経が鋭敏になった気がした。またもや固まって動けなくなってしまった美晴越しに、健斗がシーツを物干し竿に掛ける。

「美晴さん」

 耳元に感じる健斗の息遣い。軽く肩を引かれ、お互いに向き合う。でも気恥ずかしさから美晴の目は伏せていた。

「俺、美晴さんのことが好きです」

 その言葉に弾かれたように顔を上げる。途端に、健斗の視線に絡め取られた。

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