あなたが社長だなんて気が付かなかった〜一夜で宿したこの子は私だけのものです〜

礼央SIDE

まさか自分の会社で働いてるなんて思いもしなかった。
あの日カフェで店員の融通が利かずに困っていたら声をかけてきてくれた優しい彼女。
淡いブルーのドレスが印象的だった。
その格好から結婚式に行くのだろうと思われたがどこか表情は浮かない。
何かあるのかとは思ったが今あったばかりの人間に立ち入るつもりはない。
ただ、借りたお金は返さなければと思い再会の約束をした。

バーラウンジで彼女を待っているとすぐに女性から声をかけられた。
はぁ、またか。
俺は愛想よく断った。
香水臭くて気持ちが悪い。
なぜ初対面の俺に触れてくるのか分からない。
俺は来るもの拒まずだと言われているのは知っているがそんなことはない。
むしろ面倒臭くてここ数年誰とも付き合っていない。

「待ち合わせしているんだ」

この2時間で何人に声をかけられただろうか。
仕方なくタブレットを取り出し仕事をするがまたタイミングを見計らって声をかけようとしている女の視線を背中に感じる。
もううんざりだ。
そう思っていたところでようやく彼女はやってきた。
片手を上げると彼女は気がつきこちらに寄ってきた。

一杯飲まないか、そう誘ったのは後ろいる女を牽制してのことだった。

カフェでも思っていたがどこか表情の暗い彼女が気になってつい何があったのかと尋ねてしまった。立ち入らないと思っていたが、あまりに彼女が儚く壊れてしまいそうだったので聞かずにはいられなかった。

彼女は同じ職場の男と付き合っていた結婚間近だったのに後輩に寝取られたと話し始めた。
取られた自分が悪かったとでも思っているのか、彼や後輩に対する文句はでてこない。自分の何が悪かったのかと自問自答している。

こんなに可愛らしい彼女に非があるとは思えない。先程カフェで困っていた見ず知らずの俺にさりげなく声をかけてくれる優しい彼女だ、避難することなく自分のせいとでも考えてしまったのだろう。

誘った女も悪いし、それにのった男も悪いのに彼女はそうは言わない。こんな純粋な子がいるのかと思った。

話を聞いてあげたらスッキリするかな、と思い聞き始めたのだが単純に彼女と話すのがとても楽しくて時間を忘れてしまった。

さすがに3時間を過ぎ、そろそろと思ったところで彼女が立ち上がった。
また話したい、そう思ったがなんて誘ったらいいのか分からない。俺は誘われることはあっても自分から誘うことは今までなかったんだと改めて知った。

悩んでいた時彼女がふらつき、それを支えた。
カクテルは甘いから飲み過ぎたのかもしれない。それともやはり結婚式がショックで飲み過ぎたのか……。どちらにせよ、タクシー乗り場まで送っていかないと途中で他の男に拾われかねない。

俺が荷物を持ち、彼女を支えながらエレベーターへ向かうと開いたドアからいちゃついたカップルが降りてきた。
それを見て彼女が固まるのがわかった。

鼻につく甘ったるい声を出す女が彼女を遠回しに傷つけてきた。
俺はさっき彼女から聞いていた話と合わせてもやはり彼女は悪くないと確信に変わった。

俺は彼女を守りたくて、さっと腰を抱くとさも付き合っているかのように振る舞い彼女を俺の部屋に連れて行った。

部屋に入ると彼女は足に力が入らなくなるほどに憔悴していた。酔って足が立たないわけではない。
せっかく前向きになれたと思っていたのにあそこで会ってしまいまた負のループに陥ってしまいそうだった。
ベッドに座らせた彼女は俯き、膝を見つめながら手を握りしめていた。

俺は彼女の重荷を下ろしてあげたかった。

彼女の前に座ると握りしめている手の上に俺の手を重ね、見上げると今にも泣き出しそうなほどに顔を歪め、唇を噛み締めながら泣くのを我慢する彼女はいじらしく思えた。

「唇を噛み締めてはダメだよ」

そう言うと俺は彼女の唇にキスをした。
ただ噛み締めた唇を労ってあげたくて重ねたが、彼女は嫌がる様子を見せなかったのでそのまま俺は彼女から離れられなくなった。

「ゆき」

名前しか知らない彼女。
漢字さえもわからない。
けれどなぜこんなに愛おしく思うのか。

俺は出来る限り優しく、そして甘やかすように彼女を抱いた。
彼女の身悶える姿に俺は今まで経験したことのない高揚感を覚えた。
ふと、この生真面目な彼女を守ってあげたいと思った。
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