大学教授と学生の恋の行方は‥
■第12話 生きる意味
順子は走った。
周りの人に迷惑そうな顔をされても、走らないで下さいと注意されても、宮本主任教授がいる病室に。
そして、ようやく宮本主任教授がいる病室に着き、ドアをノックする。
「はい、どうぞ」
中から、いつもの宮本主任教授の声が聞こえてきた。
順子は深呼吸をしてから、ドアを開ける。
「失礼します」
「はいどう――え!?」
宮本主任教授は病室に入って来たのが順子だと気付き、手に持っていた本を落とした。
順子は、ベッドの上で上半身を起こしている宮本主任教授を見て愕然とする。付き合っていた頃や講義を受けていた時の宮本主任教授に比べるとやせ細っていたからだ。
「順……いや、大槻君!? どうしてここに?」
「宮本主任教授~!!」
順子はその場で泣き始めた。大泣きする順子を見たことがなかったので、宮本主任教授はうろたえる。どうすればいいのかがわからないのだ。
「大槻君。えっと、落ち着いて」
宮本主任教授は年甲斐もなくうろたえる。立ち上がって、順子を傍にまで連れてきた方がいいのかとも思ったが、急に立ち上がってこけでもしたら洒落にならない。今の順子に何もしてあげられない自分がもどかしく感じた。
「うぇぇ~ん」
「大槻君。ほら、とにかく私の近くにある椅子に座ってくれないか。そうすれば少しは落ち着くはずだから」
順子は泣きながらも、宮本主任教授の言うことを聞く。宮本主任教授は素直に話を聞いてくれてホッとした。だが、心は戸惑ったままだ。
死を受け入れ、あとはその時が来るのを待つだけだと思い、淡々と日々を過ごしていたのに、順子を見た瞬間にすべてが崩れた気がした。なくしかけていた感情が蘇り、色々な思いが溢れかえってくる。
そして、椅子に座った順子の手を握った。こうすれば彼女は落ち着くだろうと思ったからだ。それ以上でも、それ以下でもないと、宮本主任教授は自分に言い聞かせる。
実際、目の前にいる順子は、少し落ち着いてきているようだった。
「ひっく……ひっく……宮本主任教授」
「うん?」
「死なないで下さい」
「っ!」
順子は真っ赤な目で、宮本主任教授を真っすぐに見つめる。宮本主任教授はその視線を逸らすことができなくなった。
「なん……で……」
「宮本主任教授が末期の胃がんだということを聞きました。でも、新薬の抗がん剤治療をすれば治るかもしれない可能性があることも聞きました」
順子のその言葉で、彼女に誰がこのことを話したのかを宮本主任教授は察した。
「それは……」
「私、宮本主任教授が好きです。今でも愛しているんです!」
「っ!!」
順子は宮本主任教授の手を握り返し、力強い瞳で見つめる。
一度は死を受け入れ、全てを諦め、この世に思い残すものなど何もないと思っていた宮本主任教授の心が揺れた。
「だ、だが君には……」
「私には宮本主任教授しかいないんです。お願いです。私に、宮本主任教授との時間をください!」
「大槻君……」
「私、医学生として入学してから、宮本主任教授と出会って、毎日のように宮本主任教授の部屋に行って質問をする時間が好きでした。周りに悪い噂が流れたけど、その後で雨の中一緒に駅まで歩いて、服を選んでくれたり、クマのぬいぐるみを買ってくれたりしたのも嬉しかった。それに、その時に、私の気持ちを受け入れてくれたのも……。普通の恋人みたいにはできなかったけど、休みの日に宮本主任教授の家に行って過ごす時間も好きでした」
順子は宮本主任教授の手を握る手に力を入れた。
「私が好きだと思う時間には、かならず宮本主任教授がいるんです。だから死なないで下さい。諦めないで下さい。私との時間を、もっと一緒に過ごしてください。わがままだってわかってます。けど、私は宮本主任教授が大好きなんです」
「……順子君」
宮本主任教授はもう、諦めるしかないと思った。
いや、順子が病室に来た時から、こうなることは予想できていた。
1人の時間が好きで、死を受け入れていたのも本当だ。だけど、こんなにも心残りが、ある状態では死ぬことはできない。
宮本主任教授も本気で順子を愛しているのだから。
「君には敵わないな……」
「宮本主任教授?」
「私も君を置いて、簡単には死ねないよ。順子君を悲しませたくはないからね」
「えっ……それじゃあ……!」
「あぁ、新薬での抗がん剤治療を受けるよ。そして、必ず胃がんを克服して、順子君との時間をできる限り長く作れるように努力する」
「宮本主任教授!」
順子はベッドの上にいる宮本主任教授に飛びついた。
「じゅ、順子君……! ここは病室だよ」
「宮本主任教授! 大好きです!」
だが、順子は宮本主任教授の身体を抱きしめる力をさらに強めた。宮本主任教授はため息をついてから、順子の身体を抱きしめ返したのだった。
順子は走った。
周りの人に迷惑そうな顔をされても、走らないで下さいと注意されても、宮本主任教授がいる病室に。
そして、ようやく宮本主任教授がいる病室に着き、ドアをノックする。
「はい、どうぞ」
中から、いつもの宮本主任教授の声が聞こえてきた。
順子は深呼吸をしてから、ドアを開ける。
「失礼します」
「はいどう――え!?」
宮本主任教授は病室に入って来たのが順子だと気付き、手に持っていた本を落とした。
順子は、ベッドの上で上半身を起こしている宮本主任教授を見て愕然とする。付き合っていた頃や講義を受けていた時の宮本主任教授に比べるとやせ細っていたからだ。
「順……いや、大槻君!? どうしてここに?」
「宮本主任教授~!!」
順子はその場で泣き始めた。大泣きする順子を見たことがなかったので、宮本主任教授はうろたえる。どうすればいいのかがわからないのだ。
「大槻君。えっと、落ち着いて」
宮本主任教授は年甲斐もなくうろたえる。立ち上がって、順子を傍にまで連れてきた方がいいのかとも思ったが、急に立ち上がってこけでもしたら洒落にならない。今の順子に何もしてあげられない自分がもどかしく感じた。
「うぇぇ~ん」
「大槻君。ほら、とにかく私の近くにある椅子に座ってくれないか。そうすれば少しは落ち着くはずだから」
順子は泣きながらも、宮本主任教授の言うことを聞く。宮本主任教授は素直に話を聞いてくれてホッとした。だが、心は戸惑ったままだ。
死を受け入れ、あとはその時が来るのを待つだけだと思い、淡々と日々を過ごしていたのに、順子を見た瞬間にすべてが崩れた気がした。なくしかけていた感情が蘇り、色々な思いが溢れかえってくる。
そして、椅子に座った順子の手を握った。こうすれば彼女は落ち着くだろうと思ったからだ。それ以上でも、それ以下でもないと、宮本主任教授は自分に言い聞かせる。
実際、目の前にいる順子は、少し落ち着いてきているようだった。
「ひっく……ひっく……宮本主任教授」
「うん?」
「死なないで下さい」
「っ!」
順子は真っ赤な目で、宮本主任教授を真っすぐに見つめる。宮本主任教授はその視線を逸らすことができなくなった。
「なん……で……」
「宮本主任教授が末期の胃がんだということを聞きました。でも、新薬の抗がん剤治療をすれば治るかもしれない可能性があることも聞きました」
順子のその言葉で、彼女に誰がこのことを話したのかを宮本主任教授は察した。
「それは……」
「私、宮本主任教授が好きです。今でも愛しているんです!」
「っ!!」
順子は宮本主任教授の手を握り返し、力強い瞳で見つめる。
一度は死を受け入れ、全てを諦め、この世に思い残すものなど何もないと思っていた宮本主任教授の心が揺れた。
「だ、だが君には……」
「私には宮本主任教授しかいないんです。お願いです。私に、宮本主任教授との時間をください!」
「大槻君……」
「私、医学生として入学してから、宮本主任教授と出会って、毎日のように宮本主任教授の部屋に行って質問をする時間が好きでした。周りに悪い噂が流れたけど、その後で雨の中一緒に駅まで歩いて、服を選んでくれたり、クマのぬいぐるみを買ってくれたりしたのも嬉しかった。それに、その時に、私の気持ちを受け入れてくれたのも……。普通の恋人みたいにはできなかったけど、休みの日に宮本主任教授の家に行って過ごす時間も好きでした」
順子は宮本主任教授の手を握る手に力を入れた。
「私が好きだと思う時間には、かならず宮本主任教授がいるんです。だから死なないで下さい。諦めないで下さい。私との時間を、もっと一緒に過ごしてください。わがままだってわかってます。けど、私は宮本主任教授が大好きなんです」
「……順子君」
宮本主任教授はもう、諦めるしかないと思った。
いや、順子が病室に来た時から、こうなることは予想できていた。
1人の時間が好きで、死を受け入れていたのも本当だ。だけど、こんなにも心残りが、ある状態では死ぬことはできない。
宮本主任教授も本気で順子を愛しているのだから。
「君には敵わないな……」
「宮本主任教授?」
「私も君を置いて、簡単には死ねないよ。順子君を悲しませたくはないからね」
「えっ……それじゃあ……!」
「あぁ、新薬での抗がん剤治療を受けるよ。そして、必ず胃がんを克服して、順子君との時間をできる限り長く作れるように努力する」
「宮本主任教授!」
順子はベッドの上にいる宮本主任教授に飛びついた。
「じゅ、順子君……! ここは病室だよ」
「宮本主任教授! 大好きです!」
だが、順子は宮本主任教授の身体を抱きしめる力をさらに強めた。宮本主任教授はため息をついてから、順子の身体を抱きしめ返したのだった。