大学教授と学生の恋の行方は‥
■第14話 生涯を歩む者
数か月が過ぎ宮本主任教授が退官する誕生日まで、あと3か月となった。
宮本主任教授はというと――
「これならもう大丈夫そうね」
白衣を着た土島主任教授が、ベッドの上で上半身を起こしている宮本主任教授に伝える。
そこには数か月前とは違い血色の良い表情の宮本主任教授の姿があった。
「土島主任教授にもお世話になったね」
「私は投薬治療をしただけよ。お礼を言うなら、あなたの手を握ったまま眠っている彼女に言うべきじゃない?」
宮本主任教授と土島主任教授は、宮本主任教授のベッドの隣でうつぶせになって眠っている順子を見る。
順子は母親との約束を守るため、病室に来ても宮本主任教授の様子を見ながら徹夜で勉強をしていた。
「わかってる。私の意見を変えたのも、私を支えてくれたのも彼女だから。だが、治療をしてくれたのは君だし、提案をしてくれたのも君だ。ありがとう」
「……あなた、変わったわね。昔だったら、私にお礼なんて言わなかったのに」
「まぁ、一度死にかけた男だからね。多少は変わるさ」
「なるほどね。それじゃ、そのお姫様が起きたら、退院の手続きをとって、さっさと出て言ってちょうだい。うちは元気な人を病室に入れておくほど暇じゃないんだから」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
土島主任教授はそう言うと病室を出ていった。
病室で2人きりになると、宮本主任教授は眠っている順子の髪に触れる。
「まさか本当に退院できる日が来るなんて。半年前、胃がんだってことがわかった時には考えたこともなかったよ」
宮本主任教授は愛おしそうに、順子を見つめる。
「出会った時は19歳の子どもだった君ももう24歳。数か月後には君も、ようやく医学部6年生になるんだね。そんな若い君に、私は運命を変えられてしまったのか……」
宮本主任教授の命が、あとどれぐらいあるのかは本人にもわからない。だが、治療をしていなかったら今頃はまだ苦しんでいただろうし、退官までは何とか生きたいなどと思っていたかもしれない。
「退官まで、あと3か月。だけど私は、3か月後も、半年後も、1年後も君の傍で生きていたいという欲が出てしまったよ……人というのは業が深いものだ」
「……んん、宮本主任教授?」
順子は目をしばしばさせながら、宮本主任教授を見上げる。
「おはよう。順子」
「……あれ!? 私寝てました!?」
順子は慌てて立ち上がった。そして、時計を見ると10時を過ぎている。土島主任教授の診察が9時だと言っていたので、一緒に聞くつもりでいたからだ。
「えぇっ!? うそ! もうこんな時間ですか。あれ? じゃあもう、診察って終わっちゃいました?」
賑やかな順子を見て、宮本主任教授はフッとほほ笑む。
「あ、なんで今笑ったんです? もしかして、寝ぐせ!?」
順子は慌てて手櫛で髪型を整えた。そんな姿も宮本主任教授には愛おしい。
「違うよ。さぁ、順子ここに座って。診察の結果を伝えるから」
「……はい!」
順子は急に真面目な表情になり、言われたとおりに座る。
「診察の結果。もう退院していいそうだよ。胃がんが再発する可能性はゼロではないし、むしろ高い方だとは思うけれど」
「それってつまり……宮本主任教授は……」
「健康体に戻ったってことだね」
「宮本主任教授!」
順子は宮本主任教授に飛びつく。宮本主任教授が胃がんになっていることを知った時のように、順子は泣いていた。だが、あの時とは抱きついている意味も、泣いている意味も全く違う。
「順子、君のおかげで私は胃がんを克服できたんだ。ありがとう」
「そんな……私はただ宮本主任教授に生きていてほしくて」
「その気持ちが何よりも嬉しいよ。それでね、私もちょっと大人げないかなとも思ったんだが、君に渡したいものがあるんだ」
「?」
順子は首をかしげながら宮本主任教授から離れる。宮本主任教授は枕の下から小さな箱を取り出す。
「これを君に受け取ってほしいんだ」
「えっと、これ……もしかして……」
宮本主任教授はニコっと微笑み、順子に箱を手渡す。
「病室ではカッコが付かないと思ったんだけどね……開けてみて」
「……」
順子は言われたとおりに箱を開ける。
するとそこには指輪が入っていた。
「私……いや、僕と結婚をしてほしい。この病気を克服したら、絶対に君と夫婦になるんだって思って頑張って来たんだ」
「あ……」
順子はまた泣き出してしまう。
「ごめん。やはり焦りすぎただろうか? 夜景の綺麗な場所でプロポーズをした方がいいかとも思ったんだが、順子は魅力的だから少しでも早く僕のものにしてしまいたくて……」
「こんなの……こんなの……嬉しいに決まっているじゃないですか~」
順子はそう言うと、声をあげて泣き出した。
宮本主任教授は順子が持っている指輪を手に取り、順子の左手の薬指にはめる。そして彼女を抱きしめた。
「受け取ってもらえてよかった。残りの人生全てをかけて順子を幸せにするよ」
「宮本主任教授~」
こうして2人は、宮本主任教授が退院する日に婚約をしたのだった。
数か月が過ぎ宮本主任教授が退官する誕生日まで、あと3か月となった。
宮本主任教授はというと――
「これならもう大丈夫そうね」
白衣を着た土島主任教授が、ベッドの上で上半身を起こしている宮本主任教授に伝える。
そこには数か月前とは違い血色の良い表情の宮本主任教授の姿があった。
「土島主任教授にもお世話になったね」
「私は投薬治療をしただけよ。お礼を言うなら、あなたの手を握ったまま眠っている彼女に言うべきじゃない?」
宮本主任教授と土島主任教授は、宮本主任教授のベッドの隣でうつぶせになって眠っている順子を見る。
順子は母親との約束を守るため、病室に来ても宮本主任教授の様子を見ながら徹夜で勉強をしていた。
「わかってる。私の意見を変えたのも、私を支えてくれたのも彼女だから。だが、治療をしてくれたのは君だし、提案をしてくれたのも君だ。ありがとう」
「……あなた、変わったわね。昔だったら、私にお礼なんて言わなかったのに」
「まぁ、一度死にかけた男だからね。多少は変わるさ」
「なるほどね。それじゃ、そのお姫様が起きたら、退院の手続きをとって、さっさと出て言ってちょうだい。うちは元気な人を病室に入れておくほど暇じゃないんだから」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
土島主任教授はそう言うと病室を出ていった。
病室で2人きりになると、宮本主任教授は眠っている順子の髪に触れる。
「まさか本当に退院できる日が来るなんて。半年前、胃がんだってことがわかった時には考えたこともなかったよ」
宮本主任教授は愛おしそうに、順子を見つめる。
「出会った時は19歳の子どもだった君ももう24歳。数か月後には君も、ようやく医学部6年生になるんだね。そんな若い君に、私は運命を変えられてしまったのか……」
宮本主任教授の命が、あとどれぐらいあるのかは本人にもわからない。だが、治療をしていなかったら今頃はまだ苦しんでいただろうし、退官までは何とか生きたいなどと思っていたかもしれない。
「退官まで、あと3か月。だけど私は、3か月後も、半年後も、1年後も君の傍で生きていたいという欲が出てしまったよ……人というのは業が深いものだ」
「……んん、宮本主任教授?」
順子は目をしばしばさせながら、宮本主任教授を見上げる。
「おはよう。順子」
「……あれ!? 私寝てました!?」
順子は慌てて立ち上がった。そして、時計を見ると10時を過ぎている。土島主任教授の診察が9時だと言っていたので、一緒に聞くつもりでいたからだ。
「えぇっ!? うそ! もうこんな時間ですか。あれ? じゃあもう、診察って終わっちゃいました?」
賑やかな順子を見て、宮本主任教授はフッとほほ笑む。
「あ、なんで今笑ったんです? もしかして、寝ぐせ!?」
順子は慌てて手櫛で髪型を整えた。そんな姿も宮本主任教授には愛おしい。
「違うよ。さぁ、順子ここに座って。診察の結果を伝えるから」
「……はい!」
順子は急に真面目な表情になり、言われたとおりに座る。
「診察の結果。もう退院していいそうだよ。胃がんが再発する可能性はゼロではないし、むしろ高い方だとは思うけれど」
「それってつまり……宮本主任教授は……」
「健康体に戻ったってことだね」
「宮本主任教授!」
順子は宮本主任教授に飛びつく。宮本主任教授が胃がんになっていることを知った時のように、順子は泣いていた。だが、あの時とは抱きついている意味も、泣いている意味も全く違う。
「順子、君のおかげで私は胃がんを克服できたんだ。ありがとう」
「そんな……私はただ宮本主任教授に生きていてほしくて」
「その気持ちが何よりも嬉しいよ。それでね、私もちょっと大人げないかなとも思ったんだが、君に渡したいものがあるんだ」
「?」
順子は首をかしげながら宮本主任教授から離れる。宮本主任教授は枕の下から小さな箱を取り出す。
「これを君に受け取ってほしいんだ」
「えっと、これ……もしかして……」
宮本主任教授はニコっと微笑み、順子に箱を手渡す。
「病室ではカッコが付かないと思ったんだけどね……開けてみて」
「……」
順子は言われたとおりに箱を開ける。
するとそこには指輪が入っていた。
「私……いや、僕と結婚をしてほしい。この病気を克服したら、絶対に君と夫婦になるんだって思って頑張って来たんだ」
「あ……」
順子はまた泣き出してしまう。
「ごめん。やはり焦りすぎただろうか? 夜景の綺麗な場所でプロポーズをした方がいいかとも思ったんだが、順子は魅力的だから少しでも早く僕のものにしてしまいたくて……」
「こんなの……こんなの……嬉しいに決まっているじゃないですか~」
順子はそう言うと、声をあげて泣き出した。
宮本主任教授は順子が持っている指輪を手に取り、順子の左手の薬指にはめる。そして彼女を抱きしめた。
「受け取ってもらえてよかった。残りの人生全てをかけて順子を幸せにするよ」
「宮本主任教授~」
こうして2人は、宮本主任教授が退院する日に婚約をしたのだった。