呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます!
墓守りの家に着くと、地下の扉から一階に上がった。

一階には、誰もいない。

墓守りはどこでしょうか? と不思議だった。



「旦那様……墓守りの方はどちらに?」

「どこかをウロウロしているのだろう」

「こんな真っ暗な時間にですか?」

「用がなければ好きにさせているからな。いなくても問題はない。リーファ、魔力測定器はこっちだ」



窓は開いているけど、蝋燭の灯り一つないこの家が怖い。

窓からの月明かりと、旦那様の灯りの魔法で、薄暗い部屋を見渡すと、なんだか古臭い感じだった。

側の棚に目を落とすと、うっすらと埃もかぶっている。

おいてあるロウソクが目に入ると、途中まではロウソクの芯が減っているのに火も燈されてなくて最近の使ったあとには見えない。

ひと気のない家だからか、背筋がぶるっと震えた。

……本当にこの家に墓守りが住んでいるのだろうか、と思うぐらい生活臭がなさすぎた。



「旦那様……この家に人は住まれているのですか?」

「ひと……? 住んでいるのは墓守りだが、墓守りはお化けだぞ。人のお化けだが……」



やっぱりーー!!

この家で生活してないですよね!?

だって、人の臭いとかが、全くないのですよ!?



「言わなかったか? うちの使用人はロウだけだと、言ったかと思ったが……」

「そ、そういえば言っていました」



最初に言っていました! 覚えています!

でも、まさか、邸の外の墓守りまでお化けとは!?

そういえば、以前、お化けが暴れていると呼びに来たのは、お化けだからすぐに呼びにきましたか!



旦那様は気にせずに、そのまま私を連れて魔力測定器のある部屋に行った。

この部屋も窓は開いており、本棚に机があるくらいで何もない。

そして、真ん中の机にはボヤリと光る丸い水晶が置いてあった。

まるで占い師が使うような水晶だ。



「これだ。リーファ。これに手をかざしなさい」

「はい……」



旦那様に言われるまま、手をかざそうとマントから出て水晶に近づくと大きな声が聞こえた。



『……ぇぇえええぇーーーい!!』



窓に顔を向けると、ジュリア様が飛び込んでくるのが見えた。

しかも、足蹴りにするつもりなのか、あるのかないのか、わからないぼやけた足から突っ込んできている。

慌てて逃げようとするが、足がもつれて机に転んでしまう。



「キャアァ!!」

「リーファ!?」



ゴンッと頭が当たり、旦那様が起こしてくれた。



「リーファ、大丈夫か!? ジュリア! 脅かすなと言っただろう!!」



旦那様に支えられるが、幽体離脱はしてない。



「……旦那様、幽体離脱してません! ちゃんと痛いです!」

「ということは……」

「あの苦い魔法薬が効いていたのですよ!」



机にぶつけた額を旦那様と撫でながら、お互いに幽体離脱をしていないことを実感していた。



「良かった、これで一安心だ……」

「旦那様のおかげです。本当にありがとうございました」



旦那様が、包み込むようにギュウッと抱きしめてくる。

私もそのまま、旦那様の背に腕を回して温もりを感じた。

これが生身の温もりだと、ほっとした。



『ちっがーーーーう!!』



ジュリア様はそんな私たちに、怒り気味で叫んだ。



「ジュリア、お前はなにをしに来たんだ?」

「ジュリア様、なにかあったのですか?」

『ガイウスたちばかり、いちゃついてずるいわ!! 私なんか追い出されたのよ!!』

「誰にだ?」

『ダーリンよーー! トイレに絶対に来るなと言って、こもっているのよ!! ロウまで、ここは許してあげてください、って入れてくれないのよーー!!』

「お前はトイレまでついていくのか……そこは、やめてやれ」

『だって、ずっと出てこないんだものーー!!』



はぁーと呆れた旦那様に、ジュリア様はずっと喚いている。

それに、トイレから出られないのは、ロウさんのせいだと思う。

下剤なんか仕込むから……。



「ジュリア様、終わるまでお待ちになってあげてください」

『リーファばっかりずるいわ! 身体をよこしなさーい!!』

「ダ、ダメです!」

「やめろと言っているだろう」



まさか、また身体を奪うつもりで突撃して来たとは……。

旦那様は、なんとかジュリア様をなだめている。

仕方ないから、ロウさんに下痢止めを出すようにと、ジュリア様に伝言を頼んでいる。

やっぱり、旦那様もロウさんのせいでトイレから出られないのはわかっているようだ。



『すぐにロウに伝えるわ!!』



ジュリア様は、そう言って飛んで行った。



「リーファ、騒がしかったが、一度水晶に手をかざしてくれるか? 先ほどのこともあるから、もう大丈夫だとは思うが……」

「はい。すぐにします」



やっと水晶に手をかざすと、水晶の中が少しだけ光っている。



「光が乱れていない……魔力の乱れがないんだ。これなら、勝手に幽体離脱することないかもしれん」

「やっぱりあの苦い薬のおかげです」



旦那様は凄い。毎日飲んだかいがあった。

本当に不味くて苦かった。

いずれこの魔法薬のせいで倒れるかもとか、密かに思っていた。



旦那様も、ほっとした顔でいつもの無表情から少し微笑んだ。

その笑顔が貴重だった。



「旦那様、帰りは時間がかかってもいいので、外を歩きませんか? 月がとても綺麗です。なんだか旦那様と歩きたい気分です」

「リーファが望むならそうしよう」

「お願いします」



そう言うと、旦那様と寄り添って歩いた。

墓場は怖くて、また旦那様のマントの中に隠れていたけど、過ぎれば二人で寄り添って歩いた。



「近いうちに、結婚式をしよう。幽体離脱しなくなったから外に出ても大丈夫だろう」

「もしかして、結婚式のために魔法薬を?」

「結婚式でなにかあっては困るだろう? 本当はもっと早くすべきだったのだが……遅くなって悪かった」

「旦那様のせいではありません……」



涙がでそうだった。

まさか、結婚式を考えていてくれたとは……。



「旦那様、ありがとうございます」

「ウェディングドレスが楽しみだ」



その言葉に照れてしまう。

アーサー様から助けてくれて、ヘルハウスに来た時は驚いたけど、今はこのヘルハウスが気に入っている。

ヘルハウスに帰ると、門には甲冑様がおり胸に手を当てて出迎えてくれた。

私が、クローリー公爵夫人だと認めてくれているのだという。

それが、なんだか嬉しく思う。



そして、今日もアーサー様の叫び声が響くヘルハウスの夜が更けていった。













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