◇水嶺のフィラメント◇
「会えなくとも、元気にしていることは聞かされております。「旅」側は皆陽気で楽しいメンバーばかりですから、寂しいことなどありません。特にサブ・リーダーのメーはボクの……あっ、し、失礼致しました! わたくしのっ──」

「どうかそんなにかしこまらないで。いつものように話してくれたら、あたしも嬉しいの」

「は、はい」

 大人びた口調であっても、見た目も中身もまだまだ子供だ。自身の話題に及んで気が(ゆる)んだのだろう。

 一瞬落ち込んだ様子を見せるも、アンの優しい微笑みがパニに笑顔を取り戻させた。

 照れたようにはにかむその表情は、憂いを知らぬ十三歳の少年のものだ。

 両親を知らないパニを、アンは昔の自分に重ねた。生まれてすぐに母を亡くし、仕事に掛かりきりであった父を持つ自分。

 それでも隣に目をやれば、必ず誰かが傍に居てくれた。パニにもそのような仲間が常に在ることを知って、アンも安堵の微笑を少年に向けた。

「副首長さんはメーさんと仰るの?」

「あ、いえ。本名はメティ──」

 と話し掛けた矢先、階下から店主らしき男の慌てふためく声が響いてきた。徐々に大きくなるのは近付いているからだ。何かトラブルだろうか?


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