閉園間際の恋人たち




《俺は幸せなことに、何年もの間ダンサーとしてファンダックで働かせてもらってます。ファンの方にもたくさん応援していただいて、そのおかげで会社とも正規雇用契約を結ばせてもらってます。これは毎年契約更新の必要がある演者が多い中では、恵まれてる方だと思います。自分で言うのもおこがましいですが、それなりに……人気もあると、自負してます》

謙虚な性格の蓮君は控えめな言い方をしたけど、あの日のパレードの光景を見た限りでは、ちっとも ”それなりに” なんかではないと思う。
あの熱狂ぶりは相当なもので、フロートには他にも時生君や明莉さんといったダンサーも同乗していたものの、私の感覚では、歓声をあげていた観客の半分以上は蓮君の名前を叫んでいた気がする。
あの日だけじゃなく、後日大和と三人でファンダックを訪れた際も、やはりちらちらとすれ違いざまに注目を浴びることもあったし、時生君や明莉さんが合流した時もかなりの人が集まってしまった。
それに聞くところによると、私が怪我をしてしまったせいで、あの日から蓮君はパレードへの参加を見送っているらしい。
つまりそれほどに、彼の人気は凄まじいということだ。
それは疑う余地はなく、大袈裟な話でもなく。


すごく(・・・)人気があると思う」

私の訂正に、蓮君は《……ありがとうございます》と短く返した。
ふわりと微笑んだ気配もした。


《……でもその人気を単純に喜んでいられたのは途中までで、どんどん人気が大きくなってくると自分でも想像できなかったほどファンが増えていって、そのファンの人達の熱があまりにも激しくなっていって、琴子さんに怪我をさせてしまった時みたいに、周りにも迷惑がかかったり悪い影響が出てくるようになったんです。いくら俺達の仕事が人気商売だからといっても、通常運営や日常生活がままならないとなると考えもので、会社側も俺も頭を悩ませるようになっていきました。そうこうしてるうちに、ネットやファンレター、ファンメールの内容が、俺のダンスや演者としてのパフォーマンスへの反応ではなくて、外見を褒めるものばかりのような気がしてきたんです。かっこいいとか、イケメンとか、他には…付き合いたい、彼女いるのかな、この前どこどこで見かけた、そんなプライベートなことまで取り上げられるようになっていったんです》
「それは……まるで芸能人みたいね」

あのパレードの観客を思い返すと、単なる芸能人ではなく、スターと言った方が正しいかもしれない。
たくさんの女性を虜にし、その姿を画像におさめたいと思わせる、飛び抜けた魅力の持ち主。
だけどそのせいで苦労もあったようで、私の相槌は感嘆と同情が混ざったものになっていた。


《そうですね……。確かにダンサーは芸能人とも言えますから。俺も時々テレビに出させてもらってましたし、今もCMに出演しています。だからある程度は受け入れなきゃいけないと思ってました。でも俺の外見やプライベートなことばかりが話題になってるような気がして……実際はそんなこともないんですけど、ちゃんとダンスを評価してくれるファンもいるのはわかってたんですけど……結構気持ち的に落ち気味だったりして、自分の人気は顔のおかげなんだと悩むようになっていたんです。悩みだしたら、ファンやお客様の前でパフォーマンスする時でさえも、以前のようにダンスを楽しめなくなっていきました。あの日、琴子さんとはじめて会ったパレードでも、観客に笑顔で手を振りながらも内心では全然楽しめてなくて、気が滅入っていたほどなんです……》

蓮君の吐露はまるで懺悔にも聞こえてきて、私の胸をぎゅっと締めてくるようだった。











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