クールな御曹司は離縁したい新妻を溺愛して離さない
「離婚してください」

どれだけの間があっただろう。
彼は私の声が聞こえているはずなのに返事をしてくれない。

「あの……修吾さん?」

私は彼の様子を伺うが身動きせず私を見つめている。

「修吾さん。離婚してください。はなみずき製菓のことも白紙で構いません。申し訳ありませんでした」

彼は我に返ったのか驚いた表情を浮かべ、私を見返してきた。

「どういうこと?」

「そのままの意味です。結婚によるメリットはいらないので離婚してほしいとお願いしているんです」

「なぜ?」

「あ、それは……」

私がなんと説明しようか悩んでいると、彼は矢継ぎ早に質問を投げかける。

「なぜ急にそんなことを言うんだ?」

「えっと……」

「何かあったのか?」

「えっと」

「俺は君の嫌なことをしてしまったか?」

どうしてこんなに焦った様な表情を浮かべ、質問をするのか分からない。
彼にとっても役に立たない妻はいらないのではないか。

「理由を教えてほしい」

私を見つめる真剣な表情に目を合わせにくい。
下を向き、テーブルを見つめながらぽつりぽつりと話し始めた。

「私には修吾さんの妻という役は務まりません。礼儀作法も知らず、ファッションセンスもない。上手に社交もできない。そんな私が
妻をやれるはずがなかったんです。はなみずき製菓のことを考えてやると言ってしまいましたが、私にはその対価となる妻になる資格がそもそもなかったんです」

私は立ち上がり、頭を下げた。

「すみませんでした。よく考えもせず、自分の利益ばかりで結婚をしてしまいました。
役不足だと今さら言うのは大変申し訳なく思っています」

「美波、頭を上げて」

彼にはそう言われても上げられるわけがない。
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