こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~
『窯元源基』を出たところで、小春は大きく息を吐いた。
「小春は源ちゃんのこと苦手だったもんね」と春乃が笑う。
「だって、すごく意地悪されたからね」
小春がぼやくと、そうだったねと春乃は懐かしそうに言った。
「大人になったし、もう大丈夫でしょ」
「だといいんだけど」
小春はガックリとしながら、次のお店に向かった。
「でも、いいオトコになってたよ」
春乃はフフッと笑いながら言う。
春乃はああいうのがタイプなのだ。
男を全面的に出す感じ?
今までつきあっていた人もあんな感じの人が多い。
「春乃が好きそうな感じだよね。私は苦手だけど」
小春はもっと線が細い人がいい。物静かで性格も穏やかな感じの人。
そんなことを考えながら、久しぶりに『革細工Kei』に足を踏み入れた。
店内は相変わらず革のいい匂いがする。小春は思わず息を深く吸った。
「素敵な店だね」
春乃も見まわしながら感心していた。
商品が並ぶ棚の向こうでは、今日ももじゃもじゃ頭が作業をしている。
小春たちが近づくと、彼は顔を上げた。
「あのっ。この四月から給食室カフェに出店する『コハルノ食堂』の夏川と申します」
小春は一気に言うと、名刺をグイッと差し出した。
春乃は突然積極的になった小春に驚いたような顔をしたが、合わせるように名刺を差し出した。
彼は両手でそれぞれの名刺を持ち、代わる代わる見ながら「コハルノ食堂。夏川小春さんと隅田春乃さん…」と読み上げた。
「火・木・土に営業していますので、ぜひご利用くださいっ。テイクアウトもあります」
「高校生かと思ったけど、社会人だったんだね」
「え?」
彼は名刺から小春に目を移すと、「前にここに来たよね」と淡々と言った。