ホ・ン・ネ ☆
「紬っ!」

 あっ、樹の声。

 彼の声はすぐに分かる。普段から周りが騒がしくても一番に届いてくる。聞き分けられる。

 だって、私が一番好きな声だから。

 私は聞こえているけれど、振り向かずにいた。

「やっぱり家まで送る」

「いや、いい……」

 彼が今いる場所の逆方向にある、オレンジ色の街灯に視線を向けながら私は答えた。

「送るって!」

「いや、いい!」

 だんだんと二人の声が強くなってくる。

 家に向かおうと歩き出すと、樹に手を掴まれそうになったから、思いっきりはね返してそのまま家に向かった。
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