優しい嘘

ハンバーグ

「おいしい」
「だろ?」

俺の言葉に満足そうに笑う咲久は可愛い。
俺のせいで少し冷めたハンバーグ。それでもおいしいと感じたし、咲久が夕食を作ると言った理由が少しわかった気がした。確かに帰宅時間の関係もあると思う。だけど、俺が作るよりも自分が作った方がおいしいとわかっていたのだろう。

「今日、何食べたんだろう?」
「え?」
「父さんと母さん」
「フレンチとかじゃない?ハンバーグだったら笑うけど」
「母さん、ハンバーグ好きだからありえない話ではない」
「でも、あまり作ってくれなくない?」
「俺が作るハンバーグが好きなんだって」
「咲久の得意料理なんだね」
「そう、だな」

歯切れの悪い返事をしながら、咲久はハンバーグを口に運ぶ。その様子を少し疑問に思ったけれど、よくよく考えれば咲久と俺の兄弟という関係性は偽りなのだ。もっと嘘を重ねられている可能性だってある。

「光輝」
「ん?」
「俺さ…」

何かを俺に言おうとしているのはわかった。でも、それを聞くのが怖いと思ってしまった。だけど咲久が言いたいことを聞いてあげられるのは今、俺しかいなくて。そして、咲久自身が何かを聞いてほしいと思っているのは俺だった。
咲久と俺の視線が絡む。咲久の目は、少し揺れていた。

「うん」

無言の時間は、数秒なのか数分なのかわからなかった。

「やっぱりいいや」
「え?」

その後、咲久は無言で食事を進めて。

「風呂入ってくる。片付けよろしく」

そう言ってリビングから出て行ってしまった。
取り残された俺は、まだお皿に残っているハンバーグを見つめる。
咲久が浴室に入る音、それからシャワーの音を聞いて、それでもハンバーグを見つめるしかできなくて。ゆっくりとそれを口に運んで咀嚼してみるけれど、何故か味がわからない気がした。
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