遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「言ってることは正しい。逆に正式に申し立てる、と言ってるのだから、後は課長に任せよう?」
「はい……」

 振り返っても課長はいなくて、今日の剣幕は課長がいないからこそ、余計に激しくなったものだったのかもしれなかった。

 午前中、亜由美は何とか仕事はこなしたものの、一条ファンの視線は冷たいし、他のメンバーも心配はしてくれているようだけれど、テキパキと仕事を進めていく亜由美には声を掛けてこない。

 さすがに、怖かった……。
 けれど、誰も言わないのは本当におかしいことだと亜由美は思うのだ。

 誰かとお昼に行く気にはなれなくて、少し時間を外して、亜由美は外に出ることにした。
 会社の入っているビルを出ると、やっと息が出来るような気がした。

 亜由美の塞ぐような気持ちとは別に外は気持ちの良い青空だ。
 せめて、ランチくらいは今日は奮発しよう、と亜由美は近くのビルに向かう。

「杉原!」
 突然、名前を呼ばれて振り返ると一条がいて、亜由美に向かってつかつかと歩いてきたのだ。

 怖くて、一瞬で血の気が引くような気持ちになった。
「な……なんですか?」
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