俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
「それでね、あそこの25階建て高層マンションに遊びに行ったのね!」
「えーーー、そうなんだ!?いーなぁ」
「鴨ちゃんは旦那さんの膝に座っちゃってさー、本当にこっちが恥ずかしくなっちゃう位にイチャついててさぁ」
休憩時間。休憩室に真木ちゃんの声が響き渡るから、扉を開けようと伸ばした手を止めた。
まるで、自分のことのように得意気に話す内容に一気に血の気が引いていく。
真木ちゃん、一体何の話をしちゃってるの?
こんな所じゃ休息なんて出来たものじゃない。
あまりの居づらさに、自分の病棟を急いで離れた。
「ここなら、知ってる人はいないよね……」
職員の少ない外来ロビーに移動して、端のベンチに腰を下ろして大きな息を落とした。
辺りを見渡すと、診療開始まで時間があるからか患者さんは疎らにしかいない。
制服にカーディガンを羽織る私は明らかに職員で、少し目立つかもしれない。と、思ってこそこそと身を縮めた。
春多くんと私の噂話。あんなに大きく広まっちゃって大丈夫なのだろうか。
私だって仕事しにくいけど、春多くん自身も実習やりにくいだろうし。
それに、もし、春多くんの実習や卒業試験に影響してきたらどうしよう。なんて、顔を足元に向けて頭を抱えていた時──。
「遠くからでも、君だって分かったよ」
私の座るベンチシートの後ろ側に誰かが腰を下ろした。