俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
今日は俊也さんは出勤日で、家にいるのはミチさんだけ。それは、私も春多くんも確認したから間違いない。
白い扉に〈kagawa〉の表札。息を大きく吸ってからインターフォンに手を伸ばした。
「珠里さん、いらっしゃい!今日はクッキーを焼いたのよ」
ボタンを押すとすぐに玄関が開かれて、ニコニコと笑顔のミチさんが顔を出す。と、同時に焼き菓子であろう甘い香りも漂ってきた。
「初めまして、お世話になってます。香川美智子といいます。まぁ、若くて素敵な旦那さまね。よくお似合いだわ!」
「どうも河本春多です。いつも珠里さんがお世話になってます」
ミチさんが春多くんに挨拶をすると、春多くんもよそ行きの表情を見せて頭を軽く下げる。
「主人からお話伺ってましたが、医大生なんですね。凄く若くて羨ましい。学生結婚なんて羨ましいわ!あ、紅茶を淹れるわね!」
くるくると変わる表情に、話を切り出すタイミングがなかなか掴めない。
「へー。間取り一緒なのに、うちと全然違うなー……」
リビングに通されて、隣に座る春多くんが私にボソリと耳打ちしてくる。私も思ったけどさ。
けど、ここで話さわなきゃ、終わりにすることが出来ない。
だって、彼女は気が付いているから──。
「あ、あの。この度は申し訳ありませんでした!!」