月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─
「はい乾杯」
「……乾杯」

 ふむとかうなずきながら、ビールを飲む暗月。その生真面目さがなぜか可愛らしく思えて、私の口元が笑みを堪え、にまにまと動いてしまった。本当に、野良猫との距離を徐々に縮めているみたいだ。

 それならば、お次は餌付けか。

 私はまたもやエコバッグに手を突っ込むと、ツマミを掲げてみせた。

「ツマミもあるよ。はい駄菓子」

 バラバラっと、ベンチに座る私たちの間に駄菓子を広げてみせた。

 来月会おうだなんてただの口約束、夢か幻か分からない相手を待つのにリスクは高い。きちんとしたツマミを買って、結局会えずに家に持ち帰る羽目になった時のダメージを考え、私は駄菓子を選んだ。小包装で保存がきいて種類があって、なによりも安い。最高の選択だ。そう思っていたのだけれど、

「これは、なんだ?」
「酢イカだね。さっぱりしているけど、噛む度に旨味が出て美味しいよ」
「ほう。これは?」
「ああこれはね、スナック菓子が棒状になっているの。美味いよ。色んな味があるけど、今回はコーンポタージュ味を選んでみました」
「この長方形の袋に入っているのは?」
「揚げ餅だね。この塩味と軽い食感が良いのよ。特に中に一粒だけ入っているピーナッツが、また美味しいんだ」
「ほう」

 真剣に聞いている暗月を見ているうち、なんだかひどくイケナイことを教えているような気分になってきた。ファンタジーな月の精様にこんな世俗に塗れた駄菓子食べさせるって、良いんだろうか?

 でも当の本人は私の迷いなど気付くことも無い。最後に説明した揚げ餅を手に取ると、優雅な仕草で袋を開けた。

「小さいな」

 そう呟くと手のひらにいくつか出し、そのうちの一粒を摘んでちょっと眺めると口に入れる。しばらく真剣な表情で味わうと、こちらを向いてにこりと笑った。

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