つけない嘘
「そうそう、さっき言いかけた話だけど、もし、瑞希が結婚後も求め合いたいなら」

百合から目を離さずに、ごくりと唾を呑み込む。

「誰かと恋愛をすればいいと思う。私みたいに」

「それは、婚外恋愛ってこと?」

「そうだよ。そうすれば、心身ともに満たされて、旦那に対しての要求も期待値も下がって関係性もよくなる」

私の戸惑う表情に気づいたのか、百合は私の顔を覗き込み尋ねた。

「瑞希、ひょっとしてさっきから私に引いてる?」

まだ彼女の本心もそうなるに至った経緯も私にはわからない。

ただ、婚外恋愛なんてこと想像したこともなかったから、気持ちが複雑にぶつかり合って自分でもどういう表情をすればいいのかわからずにいただけ。

「……いや、引いてるわけじゃないよ。まぁ人生いろいろだし、一概に否定する気はないけれどさすがに私は結婚一年目だし、そんなこと思いもしなかったからさ」

狼狽えつつも、なんとか言葉を絞り出す。きっと百合も悪気あってのことじゃないとわかっていたから。

「確かに、そうだよね。まだ一年目だもん。でも、まだ一年なのにこの間から旦那に色んな不満ありそうだったし」

「いや、まぁ、そうだけど」

「もちろん、解決できる糸口があるならまずはそこからだよ。軽はずみなこと言っちゃってごめん。さっきの私が言ったことはきれいさっぱり忘れて」

忘れてと言われても。

軽く息を吐くと、運ばれてきたタケノコの天ぷらを一口噛んだ。

「百合は旦那さんとはうまくいってなかったからその……元彼とそういう関係になったの?」

タケノコをかじりながら小さな声で尋ねる。

確か百合の旦那は、七歳年上で大手商社の営業部長だった。

噂を聞くにつけ、仕事もできるしルックスも結婚式以来だけどハイレベルの部類。

「うまくいってなかったわけじゃないけど、お互い仕事が忙しくて時間のずれが生じてきてね。本当はもっと色んなこと話し合って納得して二人で将来を見据えて歩いていきたかったんだけど、そういう時間もなかなかとれなくなっちゃって。子供のことも少し話してはみたんだけど、今は忙しいからって明らかに不機嫌になっちゃってね。それ以上はあきらめた」

百合の目元が少し寂し気に見えた。

「でも、すごく優しいのよ。時間が少しでもできた時はおいしいもの食べに連れて行ってくれたり、旅行にも行ったり、プレゼントだって欠かさず買ってきてくれる。元々仲が悪いわけじゃないの。私さえ彼に色々求めなければね」

そう言った百合は、気を取り直したかのように明るく微笑むと、まるで自分に言い聞かせるように何度もうなずきながら続ける。

「元彼のお陰かな。今の旦那との関係が良好なのも」

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