つけない嘘
百合の本音はわからないけれど、元彼との間で彼女自身のバランスをとっているのかもしれない。

旦那さんのために……?

「元彼は、そんな百合のこと理解して付き合ってくれてるの?」

「そう、っていうか、元彼も既婚者だから、今の関係をキープしたいっていう気持ちも同じ。そういう意味ではお互いに理解しあって付き合ってるって感じかな。また独身同士の恋人とも違う形だわ」

元彼も既婚者?

私にはよくわからなかった。

例え愛し合ったってその相手の向うの誰かにいつも見られてるような気がして落ち着かないような気がする。

それでも、そういう関係が続くっていうのは、どういう真相真理が働いてるんだろう。

「やっぱり私にはわからないかな。でも百合も旦那さんも穏やかに過ごせてるならそれはそれでいいのかもね」

私は結論をはぐらかすような気持ちでそんな風に言った。

「過去に自分を大事に思ってくれてた人と再会したら、例えそれがダメだってわかってたとしてもつい寄りかかってしまいたくなるのかもね。瑞希ももしそんな状況になったら私の気持ちがわかるわ」

私がその話から一歩外に引いたことに気づいたのか、彼女はそう言って話を終わらせた。

愛し合って、この人と!と思って結婚したはずなのに、旦那以外に寄りかかりたい相手が目の前に出てきたりするのかな。

その前に、百合の元彼みたいに私のことを過去大事に思ってくれてた人なんて思い当たらないし。

例え現れたって、私は充と結婚していることは紛れもない事実で、それ以外の誰かと恋をするなんてあり得ない。

心の中で首をブンブン横に振った。

その時、ふといつも疲れた顔でソファーに座る充の姿が浮かぶ。

百合が言ってたみたいに、そのうち充との関係を改善する糸口を見つけられるのかな。

ふぅーと大きく息を吐くと、妙に疲れた表情の自分が電車の窓に映っていた。
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