白馬の王子と風の歌 〜幼馴染は天才騎手〜
 その日は雨上がりで地面がぬかるんでいた。
 馬場の整備は行われていたけれど、それでもコンディションは悪かったと思う。放課後にハルマと乗馬クラブで合流し、新調したばかりの乗馬服に着替えてからクイーンシュバルツと乗り運動に出た。ふだんどおりに彼女と走って、風を感じようと思っていたのに、彼女はどこかあたしを怖がっているように見えた。いままで着ていた乗馬服がちいさくなったから新しいものにしたのだが、別人のように見えてしまったのだろうか。あたしは「クイーンシュバルツ、あたしよ」と小声で宥めてから背中に乗る。
 ゆっくりと足を動かし出したクイーンシュバルツだったが、ハルマが乗っていたリーチエンペラーに抜かされて焦ったらしい。あたしが指示を出す前に走り出してしまう。突然暴れだしたクイーンシュバルツはそのまま柵に突っ込み、あたしの身体は宙に放り出された。そこから先の記憶は――思い出したくない。

 よくある落馬事故だと言われた。
 全身を打ち付けたものの、打撲ですんだあたしと違い、激突して脚の骨を折ったクイーンシュバルツはもはや走ることもできないと安楽死の処置が施された。なぜクイーンシュバルツが暴れだしたのか、原因はわからない。けれどもしあたしが彼女に乗っていなかったら、彼女は死ななかったんじゃないかと、罪の意識に苛まれた。
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