書道家が私の字に惚れました
「第一印象悪くてもファンだったわけだし、その後も好きになることってあるんじゃない?」
「亜由美はそういう経験あるの?」
聞くと亜由美は頷き、食事会で出会った今の彼氏がそうだと教えてくれた。
「見た目全然タイプじゃないし、話しも噛み合わなくて。でも彼は私のこと最初から気に入ってくれて、こまめに連絡くれて。初めは返信するのもめんどくさかったんだけどなんとなく返しているうちに面白い人だって分かり始めて、会うようになって、笑顔が素敵だな、とか一緒にいて安心感あるな、って思い始めて付き合うことになったの。だから」
亜由美は私のスマートフォンを一度見てから続けた。
「第一印象悪くても生理的に無理じゃない限り相手を知ってみることもいいと思うよ。相手が五条薫なら尚更。会ってみたら?」
まるで全てお見通しのような亜由美の言動に驚いてスマートフォンを握り締めると、亜由美は肩をすくませた。
「ごめん、画面が見えちゃった」
「あ、なるほど」
見えていても何も言わずにいてくれたことはありがたいと思わないといけないのだろう。
ただ知られてしまったことは大きい。
「誰にも言わないでね」
口止めするも、興味津々の亜由美は止まらない。
「五条薫とは次、いつ会うの?ていうか何回会ったの?告白されたんでしょ?美耶はなにを悩んでいるの?」
矢継ぎ早の質問に何から答えていいのか分からない。
だから一般論的なそもそもの問題を伝える。
「私と薫先生じゃ不釣り合いだもの」
見た目も地位も全て桁違い。
でも第三者の亜由美には気にならないようで。
「美耶って一見目立たないけど、色白で、黒目がちの一重で、黒髪っていう、完璧な和風顔の美人さんじゃん。着物を着る五条薫と並んだら絵になると思うよ」
それはどうかな、と首を傾げる。
「お家柄だって豊先生もある程度美弥のこと調べただろうから知っていることだろうし、関係ないんじゃない?」
それもどうかな、と反対側に大きく首を傾げると亜由美が私の背中をバシッと叩いた。
「美耶はもう少し自分に自信持った方がいいわよ!社内で美耶狙いの男性多いんだから」
「全然声かけられないけど?」
事実を述べると亜由美は首を横に振った。