書道家が私の字に惚れました
「な?!」
突然触れられたことに対する驚きと急加速する鼓動のせいで単語でしか発語できなかった。
でも薫先生は気にする素振りは見せず、真っ直ぐに私を見つめている。
その瞳に触れて胸が熱くなり、顔まで熱くなる。
恥ずかしくて俯こうとしても、薫先生の手がそれを許さない。
「本当に会いたかったんだ。だから顔を見せてくれ。こんなこと言うと気味悪いかもしれないが、10日間、俺はきみのことばかり考えていた。きみは?」
聞かれてもすぐに答えられなくて黙っていると、薫先生が続けた。
「きみはこの10日間、俺をどう説得しようってそればかり考えていた?」
その通りだったので視線を下げると薫先生は手を離し、笑った。
「きみは嘘がつけないんだな。俺は嘘をついたのに」
「え?」
パッと顔を上げると、薫先生は困ったように眉根を寄せていた。
「嘘?」
どれが嘘なのか見当もつかなくて聞くと、私のことばかり考えていたのが嘘だと教えてくれた。
「きみの書4割、個展3割、きみ3割だ」
「フフ。本当に字が好きなんですね」
喜ぶべきか嘆くべきか、分かりかねるけど、笑いが先にこみあげてきた。