書道家が私の字に惚れました
「今日はいい書を見せてもらいました。また見に来るので美弥先生の言うことをよく聞いて精進してください」
小学生相手に精進、なんて難しい単語を使ったものだから生徒は首を傾げたり、曖昧に頷いたりしている。
「しょうじんってなに?」
薫先生がいなくなった途端、発せられた質問に、張り詰めていた空気が緩んだ。
「美耶先生?」
生徒が心配そうな顔でこちらを見ている。
ニコッと微笑み、空気感を変えるように手をパンと叩き合わせた。
「精進についてはお家で調べてみてね。それと今日は特別!もうお手本は終わりにして、終了時間まで好きな食べ物の名前を自由に書いてみようか!」
特別、を強調したからだろう。
生徒たちの表情はパッと明るくなり、隣の子と相談したり、食べ物を思い浮かべたりしながら多くの文字を書きだした。
「今日は楽しかった」
そう言ってくれる生徒の笑顔を見送り、教室を片付け、深呼吸をしてから母屋へと足を向ける。