書道家が私の字に惚れました
「私は私自身のことを好きになってくれる方と結婚したいです」
「もちろんだ」
薫先生の表情がキリッと引き締まった。
真剣な眼差し。
その瞳に触れて胸がドキッとしてしまう。
でも頭では変わった人と認識し始めているので逸らすことなく視線を受け止めると、薫先生が口を開いた。
「俺はきみのことが好きだ」
「きみの字が、ですよね?」
間髪入れずに確認するも、肯定も否定もされずに話が進む。
「必ず幸せにする」
いやいやいや。
「どうしてそうなるんですか」
質問の答えではないし、そもそも会話が成り立っていない。
薫先生の思考に私の思考が全然追いつかなくて頭を抱えると、薫先生はスマートフォンを操作し始めた。
「連絡先を交換しよう」
「だからどうしてそうなるんですかって。私だって同じことは何度も言いませんよ」
薫先生の言葉を借りて言うと、薫先生は破顔し、ハハっと声に出して笑った。
「きみは面白い女性だな。実にいい。俺は絶対にきみを手に入れてみせる」
ダメだ、話にならない。
「私には薫先生の考えが分かりかねます」
呆れてしまって言葉も弱々しくなる。
でも薫先生の表情は終始にこやかで。
まさかこんなに変わった人だったとは思いもしなかった。
画面を通してだと性格や為人は分からないものだ。
おかげで整った顔立ちと真っ直ぐな視線も臆することなくこの短時間の間に受け入れられるようになったのだけれども。