紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
「全然いいと思います。だって熱いの苦手な人が無理にアツアツのまま食べても最後、"熱かった"しか残らないじゃないですか。だったら少し冷ましてから食べた方が美味しさも噛み締められますし、そっちの方が作った人も料理もよっぽど本望ですよ」
そのギャップを前に思ったままそう言えば、彼の深い焦茶の瞳が一瞬驚いたように見開かれた。
あれ、私、何か変なこと言っちゃっただろうか?
「……そっか、うん、そうだね」
でも次の瞬間にはその瞳は柔らかく弧を描き、適度に冷まされた唐揚げは彼の口の中へと吸い込まれていった。
「うん、これは確かにニンニクが効いていてとても美味しい」
「良かったです」
彼の、その美味しさに綻んだ顔にホッとする。
それから程なくしてやってきた彼の天ぷら定食。その海老天を新しい箸で取り分けた小皿を、「よく知りもしないおじさんからのお裾分けが嫌じゃなかったら」とさっきの私のセリフを真似て戯けながら彼はこちらへと差し出した。
「えっ、嫌ではないです!嫌ではないですけど、私はいつでも食べられるので……」
天ぷら定食が来るまでの間当たり障りのない会話をした中で、彼は今日たまたまここへ寄ったのだと、本当は通っていろいろなメニューを食べてみたいけど、いつまた来られるか分からないのだとそう言っていた。
しかも取り分けられた海老天はどう考えても天ぷら定食の主役な訳で……。