紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】





「さ、灯さん。最後の仕上げですよっ」 


時刻は午後3時過ぎ。

商業ビルのある駅から電車で1駅。そこからさらに歩いて5分と少し。珠理ちゃんはとある建物の前で足を止めて、燦々(さんさん)と降り注ぐお日様にも負けないぴっかぴかの笑顔でそう言った。

連れて来られたのは、『C’est la vie(セラヴィ)』と書かれた看板のぶら下がっている、路面に面したこぢんまりとした建物。

一階建てなのに、まるでニューヨークのアパートメントを彷彿とさせる佇まい。

珠理ちゃんがその藍色のアンティーク格子戸のドアノブを引けばそこは、お洒落な美容院だった。


「あらいらっしゃい。待ってたわよ、珠理」


レセプションカウンターでにっこり出迎えてくれたグラマラスな美女のことを、珠理ちゃんは「前に話してた、12歳年の離れた1番上の姉、麻ちゃんです』と紹介してくれた。

ご挨拶をしながら、なんて美人姉妹なんだという内心の驚きは、多分隠せていなかったかもしれない。

そして、「まぁまぁ、随分たくさん買い物して来たのねぇ」と愉快そうに笑いながら荷物を預かってくれた後。


ーー私と珠理ちゃんは今、2つしかないスタイリングチェアに並んで座り、仲良く髪をカットされている。


「灯ちゃんの黒髪、傷みもほとんどなくて本当に綺麗ねぇ」

「あ、ありがとうございます……」


シャキシャキと軽快な音を立てて私の髪をカットしてくれているのは麻美さん。

今日は肌を褒められたり髪を褒められたり、(服を買う時も試着の度に褒められた……)普段褒められ慣れていない私にとっては何ともくすぐったい1日だ。
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