紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】

「……もう行かないと。今日は思いがけず楽しいランチの時間をありがとう、あかりちゃん。またね」


そう柔らかく微笑みいかにも紳士なセリフを残して、二次元の世界から飛び出して来たようなイケオジは私の前から颯爽と去っていった。


……イケオジとランチ。しかもこんな大衆食堂で、初対面なのに互いのメニューをシェアするという……。

なんてシュール。私の人生においてこんなこともう二度とないだろうなというレアな、しかも最後に名前呼びのオプション付きのイベント発生に、ウケるなぁ、と内心爆笑しながら私は残りの唐揚げ定食を頬張った。


そして完食していつものようにおばちゃんにお会計をしてもらおうとすれば、


「ああ、それならさっき灯ちゃんが相席したあのお兄ちゃんから灯ちゃんの分も貰ってるよ」

「えっ⁉︎」


思いもよらないおばちゃんの言葉に、私の口から素っ頓狂な声が漏れた。


「見た目も中身も紳士的な御人だったねぇ」


とにんまり笑ったおばちゃんを唖然と見つめる。

こんなにサラッとお会計まで済ませていってくれるとは、本当にあのイケオジ、どこまで完璧なんだ……。

名前も何も知らない、たまたま相席しただけのイケオジ。

これが少女漫画とかドラマだったらきっとまたばったり再会して……、とかいう展開が王道なんだろうけれど、まぁ現実にそんなことが起こるはずがない。ましてや私の身に。

だからきっともう直接お礼を伝えられる機会もないだろうから、私はおばちゃんに「もしまたあの人が来たら、くれぐれも今日のお礼を伝えておいて欲しい」と念入りにお願いをして食堂を後にしたのだった。
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