紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】


……今日、会えるだろうか。

そんなそわそわした気持ちで食堂に足を運び、だけど軽く見渡した店内に彼女の姿がなかったことにがっかりして。

でも、おばちゃんから前回僕があかりちゃんの分の会計も一緒に済ませていたことに対して、彼女からお礼を(こと)づかっていたと聞きそこに彼女とのつながりを感じて少し浮上して。

まぁそう上手くはいかないだろう。

彼女だって常連とはいえ毎日ここに来ている訳じゃないだろうし、僕もしょっちゅうここへ来られる訳じゃない。

だから文庫本片手に、改めて再会までには時間が掛かるかもなと注文の品が届くのを待ちながら長期戦を覚悟していたのだが。


「……あ」


不意に頭上から降ってきた小さな声に、心臓がどくんと大きく跳ねた。


「やぁ、こんにちは」


ゆっくりと本から顔を上げ、平静を装ってにっこりとそう挨拶すれば、


「……こんにちは」


そこには、驚きを隠せない表情で佇むあかりちゃんがいた。


ーーついさっきおばちゃんに相席を頼まれ、そこにやってきたのが何と彼女だったのだ。


「また会えたね」


……さっき、長期戦を覚悟したばかりだったのに。


そう笑いかけながらも今までに感じたことのない自分の鼓動の速さに戸惑う。


そんな僕には気づくことなく改めて直接律儀にお礼を伝えてくれる彼女は、今度は僕にご馳走してくれると言う。

気持ちはとても嬉しいが、このつながりをそんな形で終わらせたくない僕が『お礼にお礼はいらないよ』、とやんわり断れば何とも不服そうな顔。

だけど、僕がその表情さえも可愛いと思っていることにも、今度は偶然に賭けるんじゃなく確実に会える約束が欲しいと思っていることにも、彼女はきっと気づいていない。


だから僕は仕掛けた。

彼女の、律儀で優しい気持ちに付け込んで。
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