紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】


あの時。


皇の店で、恋愛に臆病になってしまった原因と、それ以来人を好きになることを避けて来たせいで"好き"という気持ちが分からなくなってしまったことを打ち明けてくれた時。

何てことないと平気なフリをしてぎこちなく笑った彼女が、何よりも1番愛おしく感じた。

今までも、自分の中でそうやって折り合いをつけながらやって来たのだろう。

灯ちゃんの強さと弱さが頼りなく混在したその健気な笑顔に、大丈夫だよと、その今までの灯ちゃんごと、抱きしめてあげたくなった。


彼女にとって、進んで話したい過去ではなかっただろうに。

それでも僕には知っていて欲しいと、一生懸命話してくれた彼女が、こぼれた涙が、僕は心の底から堪らなく愛おしかった。


ーー大丈夫。

僕は、そのままの君が好きだから。
 
その出来事も全てひっくるめて、今僕の目の前にいる灯ちゃんが好きだから。

ただそのままの君で、僕の側にいてくれるだけでいい。



こんな気持ちを抱かせてくれる女性(ひと)に、僕はもう二度と出会うことはないかもしれない。


だから、恋愛から遠ざかっていた彼女がもう一度"好き"と言う気持ちを思い出す相手は、やっぱり僕がいい。


別れ際、(したた)かに酔って無防備になった君に落としたキスには、その願いも込めて。



ーーでも。


どうやら僕は、その相手には、なれなかったみたいだーー。


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