紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
……はは。本当に、なんてザマだ。
自分がこんなに往生際が悪かったなんて、知らなかったな……。
頬を、温かなものが伝っていく。
それと同時に、見上げていた鈍色の空からもついに雨が降り出して来た。
それは次第に強さを増していくが、鬱蒼と木の葉が茂る大きな樹の下では濡れる気配がない。
いっそのこと、灯ちゃんを思う気持ちも一緒に綺麗さっぱり洗い流していってくれたらいい。
そう思った僕は、空を仰いだまま一歩、また一歩と前に進む。
この頬を流れていく水滴は、雨か否か。
そんな判断もつかないくらいに濡れた頃。
「……い……みさ……」
雨音に混じって、僕の耳に微かに届いた声。
ーー空耳、だろうか。
彼女のことを想い過ぎて、ついに幻聴まで聞こえてきてしまったのか。
……彼女がここに、来るはずなんてないのに。
ふ、と、口角が自嘲気味に持ち上がった、その時。
「ーー……和泉さんっ!」
雨でけぶる視界の向こうから、今度は確かにはっきりと聞こえたその声。
僕はハッと息を飲んでその先へ目を凝らす。
そしてゆらゆらと霞む景色の中から飛び出して来たその影は、雨を切り裂いて、真っ直ぐに僕を目掛けて飛び込んで来た。
「和泉さん……っ!」
「……灯、ちゃん……?」
ーー僕の名を呼ぶその声は、必死にしがみつきながら僕を見上げるその瞳は、初めて出会った時となにひとつ変わらない真っ直ぐさを纏って、確かに今、僕の腕の中に存在していたーー。