紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
「……灯ちゃん?」
「イヤです」
「……え?」
私の突然の行動ときっぱりとした声に、和泉さんが戸惑いの声を漏らす。
「イヤです!今すぐ聞いて欲しいです。何のために雨の中、ここまで追いかけて来たと思ってるんですか……!」
「灯ちゃん……」
抱きついているせいで和泉さんの顔は見えないけれど、直接鼓膜に響いたその声に、今度ははっきりと困惑の色が滲んでいた。
それでも私は和泉さんの背中に腕を回したまま、顔を上げ真っ直ぐに彼を見つめて言う。
「和泉さんに、好きって伝えるためです!」
私の言葉に、腕の中の和泉さんの身体がぴくりと揺れて、その焦茶の瞳が大きく見開かれた。
「本当は、出張のお土産を届けに来てくれた時に伝えるつもりでした。でも、私に勇気が足りずに言えなかったせいで、こんな風に傷つけてしまってごめんなさい……!
さっきのあれは、うっかり段差を踏み外してしまった私を樹くんが咄嗟に受け止めてくれただけで、抱き合ってた訳じゃありません。私が好きなのは、こうして抱きしめたいと思うのは、今もこれからも、和泉さんだけです……!
だから、私に人を好きになる気持ちを思い出させた責任、ちゃんと、取って下さい……」
そうして心に溜め込んでいた想いの丈を一思いに吐き出してしまえば、雨音しか聞こえない静けさの中、後に残るのは私の荒い息遣いと気恥ずかしさだけ。
そうなると、自分から抱きついたくせに急にこの距離に居た堪れなくなって。
さらにはじわじわと顔まで熱くなって来るから、私はそれを隠すように俯きながら和泉さんから離れようと腕の力を緩めた。
なのに、私に抱きしめられるがままだった和泉さんが急にぎゅう、と強く抱きしめ返すから、離れることは叶わなかった。
「ーーダメ。放さないよ」
そして耳元で色を含んだ声で囁かれてしまえば、私の身体は一気に熱を持つ。