紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】

脳裏を(よぎ)るのは、やっぱり中学の時のあの日の出来事。

あれは、間違いなく今の私の大部分を形成するきっかけになった出来事で。

私が和泉さんに、恋愛というものに、ちゃんと向き合うためには多分避けては通れない。



「……和泉さん。私の昔話、1つ聞いてくれますか?と言っても全然大した話じゃないんですけど……」

「うん?」


続きを促すような柔らかい相槌に背中を押され、私は気持ちを落ち着けるように赤ワインをひと口飲む。

今まで誰にも話したことはなかったけれど、でも和泉さんには聞いて欲しいと、知っていて欲しいと、そう思った。


私はゆっくりと話し出す。


「……私、人を好きになったの、中学生の時が最初で最後なんです」

「……うん」

「中学の時、同じクラスに好きな男の子がいて。当時仲の良かった子にだけは自分の気持ちを打ち明けてたんですけど。でもある日、その子が実は周りに私の気持ちを言いふらしていたことを知って」

「それは……」


それだけで、多分薄々察してくれたのだろう、和泉さんが言い淀む。


「……はい、彼女も彼のことが好きだったんですね。だからきっとライバルである私を蹴落とそうとした。そして人伝(ひとづて)に私の気持ちを聞いた彼が私は"あり得ない"って言っている場面にうっかり遭遇してしまって。……ってそんなこと、あの年代の頃にはきっとよくある話ですよね。あんなの1つの通過儀礼みたいなものだし、全然大したことじゃないとは思うんですけど……」


苦笑しながらも私はあの時のチリチリとした胸の痛みを思い出して、無意識に胸元にある珠理ちゃんがくれたネックレスを握った。
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