紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
ーーーなのに。


「ーー……灯ちゃん。話してくれてありがとう。でも、無理に笑おうとしなくていい。平気なふりなんて、しなくていいんだよ」



不意にぽん、と、頭に乗せられた和泉さんの大きな手。


「"全部"、ちゃんと伝わったから」


その言葉に。

優しく、私の頭を往復するその手の温もりに。



貼り付けていた笑みが一瞬でくしゃりと崩れて、抑えていた涙がぽろり、不覚にも一粒こぼれてしまった。


"全部"、のところをことさら強調してくれた和泉さんには、きっと私の気持ちまで本当に全部お見通しなんだろうな、と思う。

強がったって、すぐにバレてしまう。

そんな和泉さんに、あの頃の私ごとふんわりと温かい毛布で(くる)んでもらったような感覚になって、一粒こぼれた涙がさらに涙を引き連れて来た。


「……もうっ……!泣かさないで下さいよ……っ」

「はは、ごめんね」


涙をこぼしながら憤慨する私に、撫でていた手を止めて和泉さんは困ったように笑いながらハンカチを差し出してくれる。

私でも知っているブランドのロゴがさり気なくついた、皺一つないチェックのハンカチ。

本当にイケオジはやることがいちいちスマートだと内心苦笑しながら、「……ありがとうございます」と有り難く受け取った。


「それにね、好きって気持ちも、無理に分かろうとしなくて大丈夫じゃないかな。そういうのは、その時が来たら自然と分かっちゃうものだから。不思議なことにね」

「……そういうもの、ですか?」

「うん、そういうものだよ。……僕も、そうだったから」

「え……?」
< 94 / 279 >

この作品をシェア

pagetop