極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
若いころ、父さんは随分やんちゃだったらしい。
一応高校にも医大にも行き医者にはなったけれど、社会に出るまではかなり遊んでいたんだとおじいちゃんが嘆いていた。
その反動かもしれないが、俺や母さんの連れ子として引き取った妹のしつけにはやたらとうるさい。
厳しいわけではないと思うが、父さんなりに『人の道』なる定義があるようで、人様に迷惑をかけるような行動や、世間的にいけないとされる行動には細かく注意された。

確か大学時代、サークルの飲み会で酔っぱらい街でからまれたことから喧嘩になった時も、「医者になろうとする者としての自覚がなさすぎる」と叱られ、財布もカードも携帯も取り上げられたうえで半月間自宅で謹慎させられた。
さすがに「二十歳を過ぎてそれはおかしいだろう、大学はどうするんだ」と抗議すると、「それで留年すればもう一年やり直せばいい。そのくらいの金は出してやる」と言われ絶句した。
とにかく融通の利かないところのある父さんなんだ。
その父さんにもし美貴さんの妊娠が知られたら、結構面倒なことになるかもと思っていたんだが・・・

「何か、聞きましたか?」
「聞かれてまずいことでもあるのか?」

ははーん、これは絶対に知っている。
やはり産科部長が告げ口したのか。

「まだ、報告できる段階ではありません」
「じゃあいつならできるんだ?」
「次に帰る時までには」
「わかった、待っているからな」
「はい」

さあ、困った。
父さんの耳にまで入ったとなると、ゆっくりはしていられない。
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