極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
「あの、そこの駅までで結構です」

この先を行けば太郎さんのマンションとは逆方向になる。
だから私は近くの駅でタクシーを降りようとしたのに、

「家まで送るよ。だいぶ酔っているでしょ?」
「そんなには」

確かに、普段よりは酔っぱらっている。
でも、顔にも態度にも出ないようにしていたつもり。
太郎さんに気づかれるはずないんだけれど・・・

「そういえば、あの子元気にしてる?」

あの子って・・・ああ、ワンちゃん。

「元気です。あの後獣医さんで健康診断もしてもらって、シャンプーカットもしてもらってとってもかわいくなりました」
「そう、会いたいなあ」
「え?」

返事に困った。
太郎さんのことだから下心があるとは思わないけれど、正直驚いた。

「ごめん、そういうつもりじゃないんだ。ただ、少し疲れていてね。こんな時は何かに癒されたいなって、身勝手な話だったね」
ごねんねと何度も謝ってくれる太郎さんの顔が、寂しそう。

「いいですよ、よかったら来てください。太郎さんの家に比べれば狭くて恥ずかしいですけれど、ワンちゃんも喜ぶと思うので」
「いいの?」
「ええ」

今まで男の人を部屋に入れたことはないけれど、太郎さんならいいかなと思った。
きっと、私にとって太郎さんは特別なんだ。
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