極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
「さあどうぞ」
マンションに帰ってきた私は太郎さんを家に上げた。

「今お茶を入れますから待っていてください」
「ありがとう」

キャンキャン。

私が帰ってきたのを察知して、ワンちゃんはすでに泣き出している。

「この子、出してもいいの?」
「ええ」

リビングの奥に置かれたゲージから今にも飛び出しそうなワンちゃんを太郎さんが抱き上げる。

「たった10日なのに随分重くなったね」
「そうですか?」

獣医さんからも注意しなさいって言われているんだけれど、かわいいからつい餌をあげすぎてしまうんだよね。

「あれ?」
太郎さんが不思議そうにワンちゃんを見ている。
「何か?」

「この子の名前って・・・」
太郎さんはワンちゃんの首輪に付けられたネームプレートと私を交互に見る。

あ、ああ、そうだった。
「ごめんなさい、『タロウ』にしたんです。一番しっくりくる名前だったので」
すみませんと私は頭を下げた。

「そうか、お前もタロウか」
きっと怒るのかなと思っていたのに、太郎さんはニコニコ。

「ごめんなさい」
「いいよ、気にしないで」
タロウを膝に乗せ頭をなでる太郎さんはとっても優しい顔をした。

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