極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません

「ごめんね、今日はやめておくわ。この後予定もあるの」
それとなく断ったつもりなのに、
「えぇー、いいじゃない」
しつこく説得にかかる若者。

困ったな。
その気がないのに調子に乗ってお酒を飲んだ私たちも悪いんだけれど、断られればすんなり引き下がってくれるのが大人のルールだと思う。
特にホテルのバーでしつこく声をかけるなんて場違いもいいところ。

「本当にごめんね」
これ以上言い寄られるとキレてしまいそうな私を察知して泉美が私の前に立った。

普通の人ならこれで引いてくれるはず。この時の私はそう思っていた。
じゃなければわざわざここに来たりはしない。
街のクラブだって、大衆居酒屋だって、出会いは求められる。
そうしないのはちゃんとした大人の男性に出会いたいから。男なら誰でもいいわけじゃない。

「ねえ、もう一軒だけ行こうよ」

えっ？
泉美がちゃんと断っているのに、まだ言うか。

「俺らいい店知っているんだよ。最近できた店で若い子に人気のところなんだから」

若い子に人気の新しい店って言えばおばさんはついてくるとでも思っているんだろうか。
バカにしてる。

「行かないって言っているでしょ。いい加減に消えてよ」
とうとう私がキレてしまった。

「ふざけるなっ」
男性の大声と同時に、
ガチャンッ。
立ち上がった男性の手がグラスに当たり床で割れる音。

あーぁ。

その後店内の視線を独り占めしてしまった男性。
私と泉美はどさくさに紛れて店を出たけれど、男たちはペコペコとマスターに頭を下げていた。