迷信を守らず怪異に遭遇し、必死に抵抗していたら自称お狐様に助けてもらえました。しかし払う対価が、ややエロい件についてはどうすればいいのでしょう。
第八章

次期長となる者(一)

 ふらふらと歩き回るうちに、記憶は薄らと辺りに溶け込んでいた。

 気付くとそこはもうあの恐ろしい道ではなく、自分の部屋だ。

 シンの姿はいつの間にか居なくなっている。

 しかしまだ先ほどまでシンはいたようで、背中が温かい。

 その温もりがどこか心地よく感じる私はやや重症なのかもしれない。


「高校始まったら、彼氏でも作れないかな」


 あんなエロ狐さまに彼氏の役割を求めるのは、さすがになにか違うだろう。

 しかし一緒にいればいるほど不快ではないのは確かだ。

 だからこそ、ちゃんと見つけないと。


「友達もいないから……かな」


 引っ越ししてしまったために、ここでの知り合いは親族以外にいない。
 
 仲の良かった子たちとは連絡は出来ても、それだけでしかない。


「帰りたい」


 あの場所にではなく、あの頃に。

 今例え戻ったとしても、あの頃の何もなかったような関係性には戻れないような気がするから。

 仕方がないとだけ繰り返す父には、きっと私の気持ちなんて分からないだろう。

 ため息もひとり言も誰に聞かれるわけもなく、ただ静まり返る部屋の中で消えていった。
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