迷信を守らず怪異に遭遇し、必死に抵抗していたら自称お狐様に助けてもらえました。しかし払う対価が、ややエロい件についてはどうすればいいのでしょう。

次期長となる者(三)

 確か従兄いとこだったと思う。

 思うというのも、私は幼い頃の記憶があまりないのだ。

 周りの大人たちはそんなもんだと口々に言うが、友達に聞いても小学校より前の記憶が曖昧なんてことはなかった。

 三歳でここから引っ越したとはいえ、別に取り分け何か衝撃的なことがあったわけでもないのに。



「……」



 無言でやや厳しい表情の男性が部屋へと通される。

 私を見るその表情は厳しいというよりは嫌悪に近い。

 身長はシンよりはやや低いだろうか。それでも170cm以上はあるだろう。

 そして一言も声を発することなく、私の隣に座った。


 露骨にここまで不機嫌な顔をされると、声をかけづらい。

 短い黒い髪に整った顔がなんとも台無しだなと横目で観察をしていると、上座の襖が開いた。


 付き人らしき男の人に支えられながら、杖を付いた長が部屋に入ってくる。

 確か御年75だったはず。

 足腰こそ弱いものの、目つきは鋭く、思わず視線を逸らしたくなるほどだ。

 家紋の入った着物をきっちりと身に着けており、なんだか普段着の自分が恥ずかしくなる。



「皆の者、今日はよく集まってくれた」



 上座に着くなり、長が挨拶をする。

 この部屋には私と隣に戒しかいないというのにどうして皆の者などと……。


 しかし次の瞬間、ざわりとした視線が纏わりつく。

 誰もいないはずの座布団たち。

 それなのにまるでカメラか何かでじっと観察されているような気分だ。

 そこにはないはずの視線に、値踏みされているような居心地の悪さが支配する。
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