ある日、マンガ家が落ちていて
「お似合いでいらっしゃいますよ」
いつのまにかやって来ていた、ショップの店員が言った。四十歳くらいの落ち着いた女性だ。
「彼女に、いろいろ見せてあげてください。値段の上限は気にしないで」
「かしこまりました。そのワンピースも素敵ですが、こういったシフォンスカートはいかがでしょう。それから他にも」
店員は次々に服を出してきてくれた。さすがハイブランド店に勤めているだけあって、持ってくる商品に的外れなものがない。あゆみの好みを、すっかり把握しているようだった。
くるくると何着も試着して、どれも捨て難かった。あゆみは、こんな服も着れるんだ私、と思うといつの間にかハイになっていた。服を着るたびに、何かが更新されていくような、高揚感があった。
試着した服を並べて、あゆみは溜め息をついた。
「どれも素敵で…決めきれません」
試着した中から、一着を選ぼうとしたら、笹岡が言った。
「じゃ、全部買いましょう。量が多いから配送してもらいましょうか」
「かしこまりました。では、ここにご住所とお電話番号をご記入願えますか」
店員は、あゆみにカードを差し出した。全部買うなんて、と目を白黒させたあゆみだったが、店員も笹岡もにこにこしている。これは何でもないことなんだ、と言わんばかりだ。
狼狽している自分がおかしい気がしてきて、あゆみはカードに住所と電話番号を記入した。会計は笹岡がさっとカードで済ませた。
店員にありがとうございました、と恭しくお辞儀をされて、その店を出た。
先を歩く笹岡の背中に、あゆみは言った。
「あの、本当にありがとうございます。こんなにお金を遣わせてしまってなんて言ったらいいか」
「いえ。好きなだけ試着して、好きなだけ買える。そんな日が人生にあってもいいでしょう。大杉さんは、そんなスペシャルな日を、お客様に提供する側なんですよ。もっと自由に、もっと大胆に、お客様に商品を提案してもいいんじゃないですか」
「はい…私、苦手分野なんで、ガチガチになってました。今日のお客様…六十代のご婦人とは会ったことがなかったので、つい誰にでも似合うような、無難なものを切り札にしてしまっていました。でも、今なら、もっといいものをお勧めできそうな気がします」
「試してみませんか」
「え?」
いつのまにかやって来ていた、ショップの店員が言った。四十歳くらいの落ち着いた女性だ。
「彼女に、いろいろ見せてあげてください。値段の上限は気にしないで」
「かしこまりました。そのワンピースも素敵ですが、こういったシフォンスカートはいかがでしょう。それから他にも」
店員は次々に服を出してきてくれた。さすがハイブランド店に勤めているだけあって、持ってくる商品に的外れなものがない。あゆみの好みを、すっかり把握しているようだった。
くるくると何着も試着して、どれも捨て難かった。あゆみは、こんな服も着れるんだ私、と思うといつの間にかハイになっていた。服を着るたびに、何かが更新されていくような、高揚感があった。
試着した服を並べて、あゆみは溜め息をついた。
「どれも素敵で…決めきれません」
試着した中から、一着を選ぼうとしたら、笹岡が言った。
「じゃ、全部買いましょう。量が多いから配送してもらいましょうか」
「かしこまりました。では、ここにご住所とお電話番号をご記入願えますか」
店員は、あゆみにカードを差し出した。全部買うなんて、と目を白黒させたあゆみだったが、店員も笹岡もにこにこしている。これは何でもないことなんだ、と言わんばかりだ。
狼狽している自分がおかしい気がしてきて、あゆみはカードに住所と電話番号を記入した。会計は笹岡がさっとカードで済ませた。
店員にありがとうございました、と恭しくお辞儀をされて、その店を出た。
先を歩く笹岡の背中に、あゆみは言った。
「あの、本当にありがとうございます。こんなにお金を遣わせてしまってなんて言ったらいいか」
「いえ。好きなだけ試着して、好きなだけ買える。そんな日が人生にあってもいいでしょう。大杉さんは、そんなスペシャルな日を、お客様に提供する側なんですよ。もっと自由に、もっと大胆に、お客様に商品を提案してもいいんじゃないですか」
「はい…私、苦手分野なんで、ガチガチになってました。今日のお客様…六十代のご婦人とは会ったことがなかったので、つい誰にでも似合うような、無難なものを切り札にしてしまっていました。でも、今なら、もっといいものをお勧めできそうな気がします」
「試してみませんか」
「え?」