ある日、マンガ家が落ちていて
 店内は女子であふれ、甲高い声が行き交っている。笹岡は、たじろいだ顔をしたが、あゆみが店の奥の、比較的静かな席に連れて行くと、いくらかほっとしたようだった。
 あゆみはフルーティなカクテルを、笹岡はハイボールを注文した。飲み物を待つ間、くすっとあゆみは笑った。
「笹岡先生は少女漫画家だけど…やっぱりこの店に似合いませんね」
「それ、よく言われます。お前みたいな大男が、なんで少女漫画描いてるんだって」
「うん、うん。私も、それ知りたいです」
「姉がいるんですが、少女漫画が好きで、自然と読むようになって。身内贔屓になりますが、姉の少女漫画のセレクトがよかったんでしょうね。友達から借りて読む少年漫画よりも、こっちが面白いなあって思って」
「でも、女の子が主役になる物語って単純に男性にはハードルが高いんじゃないんですか?想像ですけど、ルナちゃんに先生はなりきって描いているんでしょう?」
「うーん、ルナに関して言えば、すごくユニセックスなキャラだと思っていて。見た目は可愛い女の子でも、中身は少年っぽく描いてるつもりです」
「ああ、わかります!ルナちゃんが凛としてるのってそういう事なんですね。あれが格好いいんですよ。可愛いだけじゃないルナちゃんが、私も大好きなんです」
 あゆみは思わず声を大きくして語ってしまっていた。『シュークリーム・ポップス』の話になると、ついファン気質がどかんと出てしまう。
「そう言ってもらえて、よかった。ありがとうございます。…あの、大杉さん、ルナをよく知る女性読者と見込んで聞きたいことがあるんですが」
 白羽の矢が当たった!と、あゆみは、背筋を伸ばした。
「はい、なんでしょう」
「ルナは…三角関係で悩んだり、するでしょうか?」
「えっ、だってルナちゃんは、前からボイトレのコーチの相模さんのことが好きじゃないですか」
「そうなんです。僕は、ルナに一途な女の子であって欲しいと思ってるんですが…編集者が、ルナが恋に悩んだり、ゆれたりするところを読みたい、と言っていて…そんなネームを切ろうとしたんですけど、なんだかルナじゃない気がしてきて、筆が進まないんです。でも、締め切りに間に合わなくなるから、せっつかれていて…」
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