ある日、マンガ家が落ちていて
「ファンは僕の作品のファンなわけで、僕が好きなわけじゃありませんから」
そう言う笹岡の顔は、もう平常心に戻っていた。
「それに、仕事に追われて女の子と知り合う余裕なんて全然ないんです。人見知りの方だし…今日だって、大杉さんに連れられてアパートに行くまで、何をしゃべったらいいのかわからなくて心臓バクバクでした。炬燵に入って、大杉さんのお料理を食べたら何となくリラックスして、喋れるようになったんです」
ああ、そうか、とあゆみは合点がいった。どうりであゆみのアパートに来るまで、あゆみが『シュークリーム・ポップス』がいかに素晴らしいかを語っていたのに、他人事みたいだった。あれは緊張してたんだ、とわかった。人気漫画家は、意外と繊細な性格の持ち主らしい。
「やっぱり炬燵って偉大ですね。人の心をもみほぐしますね」
「足があったかくなると、身も心もほっとするんでしょうね」
なんだか、しみじみと老夫婦のように語り合ってしまった。もう十二時をまわっている。これからアパートに帰って、笹岡には弟の望のベッドで寝てもらおう。
笹岡が初めて会ったその日に手を出してくるような、チャラい男ではないのは、よくわかった。もしも、ベッドが一つしかなかったら、床で寝ます、と言いそうな紳士っぷりはすぐに想像できた。
あとは私が何を笹岡さんにしてあげられるか、だな…。
サインは、明日の朝、別れ際にお願いしよう。それに、まだ寒い。お風呂に入ってもらって、それから就寝としよう。お風呂がわくまでしょうが湯でも飲んでもらって、そうだそれがいい。
「笹岡さん、お風呂…」
そう言って振り返った瞬間、笹岡は、男性に羽交い絞めにされていた。
「先生、やっと見つけました。この最寄駅でGPSが途絶えたからはってたんです。ぼくらから逃げ出してデートとは、いいご身分ですね」
メガネにチェックのシャツ、チノパンという身なりの男性は言った。
先生という呼び方から、笹岡を探し回っていた編集者だという事がわかった。
男性の後方に、ネットカフェの看板が見えた。うかつだった。ネカフェの近くを編集者がはっていたのだ。
笹岡は、慌てて言った。
「加藤さん、ちょっと待って。もう問題は解決したから。明日、朝イチでネーム送りますから」
「…そんな事言ってだまそうったって」
そう言う笹岡の顔は、もう平常心に戻っていた。
「それに、仕事に追われて女の子と知り合う余裕なんて全然ないんです。人見知りの方だし…今日だって、大杉さんに連れられてアパートに行くまで、何をしゃべったらいいのかわからなくて心臓バクバクでした。炬燵に入って、大杉さんのお料理を食べたら何となくリラックスして、喋れるようになったんです」
ああ、そうか、とあゆみは合点がいった。どうりであゆみのアパートに来るまで、あゆみが『シュークリーム・ポップス』がいかに素晴らしいかを語っていたのに、他人事みたいだった。あれは緊張してたんだ、とわかった。人気漫画家は、意外と繊細な性格の持ち主らしい。
「やっぱり炬燵って偉大ですね。人の心をもみほぐしますね」
「足があったかくなると、身も心もほっとするんでしょうね」
なんだか、しみじみと老夫婦のように語り合ってしまった。もう十二時をまわっている。これからアパートに帰って、笹岡には弟の望のベッドで寝てもらおう。
笹岡が初めて会ったその日に手を出してくるような、チャラい男ではないのは、よくわかった。もしも、ベッドが一つしかなかったら、床で寝ます、と言いそうな紳士っぷりはすぐに想像できた。
あとは私が何を笹岡さんにしてあげられるか、だな…。
サインは、明日の朝、別れ際にお願いしよう。それに、まだ寒い。お風呂に入ってもらって、それから就寝としよう。お風呂がわくまでしょうが湯でも飲んでもらって、そうだそれがいい。
「笹岡さん、お風呂…」
そう言って振り返った瞬間、笹岡は、男性に羽交い絞めにされていた。
「先生、やっと見つけました。この最寄駅でGPSが途絶えたからはってたんです。ぼくらから逃げ出してデートとは、いいご身分ですね」
メガネにチェックのシャツ、チノパンという身なりの男性は言った。
先生という呼び方から、笹岡を探し回っていた編集者だという事がわかった。
男性の後方に、ネットカフェの看板が見えた。うかつだった。ネカフェの近くを編集者がはっていたのだ。
笹岡は、慌てて言った。
「加藤さん、ちょっと待って。もう問題は解決したから。明日、朝イチでネーム送りますから」
「…そんな事言ってだまそうったって」