王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 プラスチックシートを複雑にずらしながら、マジックで線を書き込む作業がしばらく続く。

 なにをどうしているのか、晴恵には見当もつかない。

 ようやく彼が大きく息を吐き出し、木型からプラスチックシートをはなして空中に広げた。
 真ん中が空洞の不思議な楕円模様が今度は紙面に描きだされている。

 型紙であろうその紙は、次はテーブルいっぱいに広げられた皮に載せられた。
 檜山が丁寧になぞっていき紙を取り外せば、精緻な模様が皮の上に描かれていた。

 優美ですらある図形は美しく艶かしく、晴恵は感嘆の声をあげそうになった。
 慌てて邪魔してはいけないと、なんとか声を抑え込む。


 檜山がどうだ!とばかりの表情になったが彼女は気づかない。
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