王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「僕はフス・フレーゲの店を経営していて、彼女はスタッフです」

 聞いてない、と檜山からにらまれた。
 言ってない、と晴恵は首をすくめる。

「晴恵は陽菜の足のトラブルをよくするためにフス・フレーゲを学びました。彼女はシュー・フィッターでもあるのですよ」

「フリッツ、既存メーカー品から探すことにしたの。だから、おいとましましょう」

 早くこの場から逃げ出したい。

「なぜ?」
「檜山さんはお忙しいの」

 晴恵とフリッツの会話に檜山が割り込んできた。

「晴恵、アンタの注文を受けてやる」

 晴恵は檜山をまじまじと見た。
 男は胡散くさいほどに爽やかな笑顔をフリッツに向ける。

「俺はこの人と打ち合わせをするから、ノイマンさんとやらは帰ってくれないか」
  
「わかりました」

 フリッツもキラキラしい笑顔を浮かべながら去っていった。

「……呆れるほど日本ナイズしたドイツ人だな」

 檜山はフリッツが去っていた方向に顔を向けながらつぶやいた。

「彼がどこの人かわかるんですか」
「フス・フレーゲが思いっきりドイツ語の発音だった」

 そこまでわかるのか。
 
「で」

 檜山が晴恵に向きなおった。
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