王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 案の定、檜山がジロリと晴恵を睨んできた。

「で? アンタ達は何者だ」
「申し遅れました、私はフリッツ・ノイマン。晴恵と一緒に働いてます」

 フリッツが挨拶すると檜山が片眉を上げた。
 晴恵は、彼に名乗りもしていなかった。

「彼女は私の婚約者のお姉さんです」

 フリッツに紹介された瞬間、顔が歪むのがわかった。
 檜山が見つめてくる圧力に耐えきれず、視線を逃す。
 
「晴恵。陽菜の足が悪いから、檜山さんの靴をプレゼントあげようということなんでしょう?」

 晴恵はこくりと頷くと、おずおずとカバンから紙を取り出した。
 晴恵の症状と足のサイズを書き写したものだ。

「妹に、結婚式に履いても痛くない靴を作ってやりたくて……、それで」

 檜山の顔が見られない。
 男は紙を受け取りもせず、そのまま眺めた。

「やけに詳しいデータだ」

 檜山の言葉にフリッツが得意げな表情で説明する。
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