王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 この男は今、なんと言った?
 夢を見ているのか。
 焦がれたあまり、彼の言葉を正反対の意味に理解してしまったのか。

「晴恵。聴こえているんだろう、返事をしろ」

 弾かれたように彼女は檜山の腕の中から顔を無理やり上げた。
 彼も自分をじっと見つめている。

 想いを告げてもいいのか。
 檜山は自分の応えを望んでいる?
 彼の言葉が、たとえ聞き間違いであっても告白できるチャンスだった。

 喘ぐような声が出た。

「取ってもいいんですか。私、檜山さんが好きです」
「俺も晴恵が好きだ」

 二人の唇が合わさった。
 両思いだったと嬉しさを感じる余裕もないほど、はじめから激しいキスの応酬。

 服を剥ぎ取られ自身も剥ぎ取っているのを、どこか遠くで『自分はこんなにも激しい女だったのだ』と考えている晴恵がいる。
 ぐい、と引き剥がされた。

「俺の事以外考えるな」

 自分をにらみつけてきた檜山の、欲に燃えた目が美しい。
 互いの唾液にまみれた、彼の唇に吸い寄せられるように晴恵は唇を重ねた。
 どんどん押されて、後退できないところまで追い詰められた。

 足はもう一歩も退けないのに、上半身はなおものしかかられている。
 晴恵はバランスをくずして、ぼすりとなにかに倒れこむ。
 檜山も体重を預けてきて、二人は夢中で互いを貪り合った。
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