絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
 しばらくそうしてどのくらい経過したのか。
「――やれやれ白衣がびしょびしょだ」
 困惑したように透夜が言った。
「ごめん、なさい。私のために」
 美澄は涙をぬぐいながら、透夜から離れた。
「少しは……すっきりしたか?」
「はい……」
「ならいい」
 透夜がほっとしたように言う。
 改めて美澄は自分のお腹のふくらみに触れる。
 こんなふうに弱気になっていたらだめだ。閊えていたものが取れたら、急に力が沸いてきた。
「私、強くなります。自分がこんな弱っていたらだめですね。赤ちゃんが頑張ってるんですから」
「さすが単純なやつ。立ち直りが早いことで」
 透夜はやさしく微笑んだ。それからカーテンを開けようとしていったん戻ってきて、頬にキスをする。
「……っ」
 声を出しそうになった美澄に、唇の前で人差し指を立てる。
「今はこれで勘弁してやる。続きは退院したら、な」
「もう」
 美澄の表情に笑みが浮かんだのを見て、透夜は安心したように戻って行った。
(透夜さん、ありがとう……私、がんばるね)

     ***

 その後、お腹の張りはだんだんと落ち着き、美澄の精神状態もだいぶ安定するようになった。
 やがて三十七週を迎え、これからはいつ出産を迎えても大丈夫だと産科医にお墨付きをもらい、めでたく年内のうちに退院することになったのだった。
 退院当日――。
 透夜は仕事があって抜けられない。美澄は自分で退院手続きを済ませ、荷物をまとめて病院を出た。
(はぁ。外の空気がおいしい……!)
 基本安静スタイルで入院していたので、だいぶ体力が落ちている。これからは少しずつ散歩をしたりヨガをしたりして出産に備えなくてはならないだろう。
 入院している間に季節が通りすぎていた。もうすぐまたクリスマスがやってくるのだ。
(最初に、透夜さんと出逢った頃から一年、か)
 二人にとって夫婦になってから、初めて迎えるクリマスになる。そして、クリスマスは透夜の誕生日でもあるのだ。
 彼はクリスマスがあまり好きではないらしい。なぜなら、彼の母親がいなくなったのも、幼なじみの彼女が亡くなったのも、クリスマス間近という日だったからだそうだ。だからこそ、なおさらクリスマスを楽しい時間に塗り替えたいという気持ちが美澄にはあった。癒してほしいと願った、彼のその希望を、美澄は叶えたいと思うのだ。
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