絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
 どちらも救いたい。けれど無理だという状況に陥ったら、そのときは――。
 過去なんて繰り返すものか。
 もう二度と大事なものを失うわけにはいかないんだ。
 泣いていた美澄の表情がちらつく。笑顔を見せてくれた彼女のことも。命を懸けて守りたいと思った、大事な妻と、お腹の子――。
 透夜の脳裏に、美澄が入院していたとき、病室で交わしたある会話が蘇った。
『透夜さんはクリスマスが好きじゃないんですか?』
『ああ。ガキの頃から、誕生日とクリスマスは一緒にされがちだったし、俺の誕生日よりもサンタが優遇されるのを見ればな……拗ねてたわけだ』
『透夜さんにもそんな時代があったんですね』
 それは建前だった。クリスマスが嫌いな理由は、その季節には、大切なものを失うことが多かったからだ。
 母親が家からいなくなったのも、幼なじみの彼女が事故で死んだのも、クリマス間近という日だった。
『それから、おまえが運ばれてきた日も、そうだったな。俺は、自分が死神とすら思うことがあるよ』
『でも、私は生きているじゃないですか。失うものは多かったかもしれない。けれど、透夜さんがいてくれたからこそ、たくさんの人が救われてきたわけじゃないですか』
『医者は神様じゃないぞ』
『ええ。そうです。おこがましいです。神様だなんて。せめて、魔王というポジションで満足してください』
 彼女は、たくましく凛々しく、沈みかけていた気持ちを引き上げてくれる、パワーのようなものを持っている。彼女の笑顔を見ていると、ほっとするし癒される。そして、その笑顔を守りたいと切に願っていた。
 失くしたくない。彼女だけは、失くしたくないんだ。
 頼むから、俺の目の前からいなくならないでくれ。
「美澄!」
 透夜が息を切らしていった救急病棟には、どこにも美澄の姿はなかった。服部は緊急手術に入った。他の医師や看護師たちも対応に追われている。
「緊急で運ばれてきた患者に、美澄という女性の名前はありませんか」
 探し回っていた透夜の元に、馴染みの看護師が駆けつけてくる。
 まさか……と血の気が引いた。
「東雲先生、奥さんなら、分娩室です」
 硬い表情を浮かべた看護師のその言葉を聞いて、透夜は眉根を寄せた。
「どういうことだ。事故に巻き込まれたって。怪我は? あいつの様子はどうなんだ。お腹の子は?」
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