絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
「ああ、おまえのおかげだ。あのとき、俺は医者として間違うところだった。おまえの一言で励まされたんだ」
「……東雲先生、かっこいいですよ。世界一、かっこいいです」
 美澄が微笑む。透夜は思わず脱力してしまう。
「事故に遭ったと聞いてから……こっちは肝が冷えたっていうのに、まったく。母親が強いというのは、本当なんだな」
「ふふ。そうです。ますますパワーアップですよ」
 美澄はそう言って笑った。
 透夜はしばらく奇跡のような面持ちで、美澄と赤んぼうを眺めていた。 
 それから、透夜は分娩室から出たあと、あまりに脱力し、思わず壁に背中をもたれさせた。もう、一生分のオペをした気分だった。
「はぁ……ったく。驚かせてくれる」
 無事だった。美澄も赤んぼうも。無事だったんだ。
 何度も自分に言い聞かせる。何度だって実感したかった。
 そこへ、看護師が声をかけてきた。
「東雲先生、おめでとうございます。奥さんよかったですね」
「とっても、かわいい女の子ですよ。これからパパ大変ですね」
「あ、ああ」
 しんみりしている暇はないらしい。次から次へと声をかけられ、きまりわるくなった透夜は、とりあえずオペを代わってくれた服部の元へと礼を言いに戻った。服部もホッと胸を撫で下ろし、それから激励するように透夜の肩を叩いた。
「がんばれよ、父親になったんだ。責任がのしかかるな」
「そうだな。今は実感がわかないが……」
「それにしても、おまえの慌てようを見たら、美澄ちゃんの方がよっぽど逞しいなと思ったよ」
 服部の発言に透夜は眉根を寄せる。
「どういうことか詳しく聞かせてくれないか?」
 改めて事故発生の状況を聞いたところ、多重事故の現場に居合わせた美澄が、怪我人の応急処置をして、救急車が到着するまで、その場で動いていたことがわかった。
 そんな特別な状況で動いているうちに、彼女自身破水してしまいすぐに陣痛がはじまったのだという。
 何台かやってきた救急車の中に美澄が運ばれたというわけだった。元々切迫早産だった美澄は、下がりやすくなっていて初産だが二時間半というスピード出産だった、というわけだ。
(まったく……)
 透夜は再び産科病棟へと移動する。
 出血は多めだったので輸血を受け、それから美澄は個室へと移動となり、赤んぼうは看護ケアのために一時的に新生児科に預けられたということだった。
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