絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
 悶々とした感情を抱えつつ、透夜は美澄のいる個室のドアをがらっと開いた。
「このお人よしバカ」
「なっ……入ってくるなり、いきなりなんですか」
 病室で美澄とふたりきりになった途端、透夜は我慢に我慢を重ねていたのだが、たまらなくなり彼女を叱りつけたのだった。
 美澄は目を丸くし、そしてむっとした顔を赤くした。しかし透夜の気は治まらなかった。
「おまえは、出逢った頃から変わらない。あれだけ俺が言ったこと、聞きやしない」
「満身創痍なんですよ、これでも」
「そうだ。お産は何が起こるかわからないんだ。他人を気にかけている場合か?」
「じゃあ、先生は放っておくんですか。倒れている人がいたら? 困っている人がいたら? 命がけで助けるでしょう?」
「はぁ。俺とおまえじゃ違うだろ」
「同じですよ。人間です」
「あのな……子どもの言い合いをしているんじゃない」
「呆れてるんですね。でも、私だって必死ですよ。自分の命もこの子の命も守らなきゃって……だから、他人だけを気にかけていたわけじゃないです。ご存じかもしれませんが、私、とっても欲張りな女なんですよ」
 美澄の一丁前の発言を呆れ顔で聞いていた透夜だったが、とりあえずそれはもういいということにし、彼女を労う気持ちに切り替える。
「よくがんばったな。無事でよかった。本当によかった」
 透夜は言って、美澄をやさしく抱きしめる。彼女は戸惑いながらも頷いて、透夜の腕に手を添えた。
「心配かけてごめんなさい。透夜さんのトラウマは……やっぱりずっと残ったままですか」
 遠慮がちに美澄は言った。
 不意に脳裏に蘇った過去の記憶に、透夜はゆっくりと幕を下ろさせた。
「いや。乗り越えられそうだ」
「よかった」
 美澄はホッと胸を撫で下ろす。彼女の柔らかな笑顔を見ていると、何もかものしがらみが宥められていく気がした。
「おまえのおかげだよ」
「これからですよ。私たちが頑張らなきゃいけないの」
「ああ」
 美澄のいうとおり、真っ赤な顔で泣いていた我が子のことを想うと、ますます守ってやらなければという力が湧いてくる。
「そうだ。名前、考えている途中でしたよ」
 鞄の中からノートを取り出す美澄だったが、その前に透夜の口からするりとある名前がこぼれていった。
「凛音はどうだ」
「りのん。どんな漢字?」
 透夜はメモに『凛音』と、ペンを走らせる。
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