絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
 急に命じられて、条件反射的に美澄は手を出した。その手を握られ、ぐいっと引っ張られる。
「金を払うよりも、給料もらった方が得だぞ。いいから来い」
「ちょ、東雲の某さん、院長の息子さん」
 有無を言わさずに連れ出され、美澄は男の後を追う。
「真下美澄」
 突然、彼がくるりと振り向く。
「は、はい」
 思わず美澄は返事をしてしまっていた。
「俺の名前は、東雲の某ではない。透夜だ」
「東雲、透夜……さん」
 圧倒されてしまい、美澄はとりあえず復唱する。
 立ち尽くす美澄をよそに、彼はさっそうとタクシーを呼びつけ、美澄を中に押し込んだ。
 振りほどいて逃げればよかったのに。おごってもらったという引け目があったからとはいえ、ほろ酔いの気分がどこか判断力を鈍らせていたのかもしれない。そうとしか説明できるはずがなかった。
















■節タイトル
2 いきなりのプロポーズ⁉
■本文
 タクシーを降りたあと、目の前にそびえたつ高級そうなタワーマンションを見上げ、美澄は感嘆のため息をつく。
「さすがは東雲先生……立派なところにお住まいなんですね。さぞかし景色もよさそうで……」
「病院から一番近いマンションがここだ。おまえが夢見ているような高層階の眺めは望めないから安心しろ」
 冷めたように言って、透夜はさっさとエントランスのエレベーターに向かう。
 いやみのつもりではなかったのだが、いやみを返されてしまい、美澄はむくれながら彼についていく。
「わ、私だって、あなたが相手じゃなかったら、今ごろそういうロマンチックな状況になっていたかもしれないじゃないですか」
「ふーん。あの喰いっぷりを自覚した上で、そう言うなんて、大層めでたいことだな」
 ばっさりと切り捨てられ、美澄はむっとする。
(八重さん、聞いてないよ。口が悪いなんてものじゃないよ。俺様王様? 魔王の間違いでは⁉)
「勝手に誘っておいて、あんまりにも失礼すぎません?」
 のこのこついてくる自分も大概だわ。
 美澄は押しに弱い自分が恨めしくなった。
「本当に、ほんっとに、何もしませんよね」
 悔しさのあまりに食い下がると、エレベーターの扉が閉まった瞬間、いきなり壁際に追い詰められた。
(な、言ってる側から――!?)
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