絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
「どうぞ。おまえの好きにしろ」
 そう言い、聞きわけのない子どもを見るかのような顔で美澄を一瞥し、靴を脱いだ。
 この男、本当に可愛くない! そっちが頼んできたくせに。
 しかしここまできたら観念するしかない。
「お邪魔します」
 美澄も靴を脱いで揃え、彼についていく。
 玄関から二つほど部屋を通りすぎ、透夜はリビングのドアを開いた。
 部屋はさっぱりと片付けられていた。男の一人暮らしにしては綺麗だな、と美澄は思う。対面型のキッチンの向こうにはソファやテーブルがあり、奥にはもうひとつセパレートになっている部屋がある。あまり物は置かない主義らしい。来客用なのか仮眠用なのか布団だけが二組積んであるのが見えた。
「なんだ、もうそろそろか。割と時間を喰ったな」
 透夜が腕時計を見てつぶやく。美澄が壁の時計を見ると、午後七時を回っていた。
「そろそろって?」
 美澄は首を傾げた。
 すると、程なくしてインターフォンが鳴り、透夜はすぐに応じた。Uターンして玄関へと行く彼を見ていると、女の人の声が聞こえてきた。
「東雲先生、連れてきましたよー」
「すまないな。ちょうど今戻ってきたところだ」
 会話をするその声音はだいぶ親しい間なのだろうと推察される。長身の彼の背に隠されていた女性が、少し身体を横にずらし、美澄を発見したらしい。ひゃーっと黄色い声をあげた。
 美澄はとりあえず彼女に会釈する。
「かわいい人じゃないですか。どうでした? お見合い……って、やだ、先生ったら。初日にお持ち帰りなんて、やっぱり若いですね。看護師たちが噂していましたよ。案外、見た目どおりに肉食系だったんですね……」
 興奮状態の彼女に対し、透夜は冷静なままだった。
「大丈夫か? どこか日本語がおかしいぞ」
「あら、私ったら。勝手に盛り上がっちゃって、ごめんなさい。それじゃあ、今夜はごゆっくり~」
 にやけ顔の来訪者は言いたいことだけを言ってそそくさと逃げるように帰って行った。
「……ったく。余計なことを言い触らさないといいが」
「あの」
「あれが、さっき説明したうちのベテランの看護師だ」
 こちらから聞くまでもなく、透夜が説明してくれた。
 打ち解けた相手にはあんなふうにフランクに接することができるらしい。
(……ていうか、私以外の患者さんには、やさしかったよね。なんの差なの……)
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